Jun潤

こちらあみ子のJun潤のレビュー・感想・評価

こちらあみ子(2022年製作の映画)
3.9
2022.07.27

井浦新、尾野真千子出演作品。
もうすぐお姉ちゃんになるあみ子の視点で描かれる、おそらく少女の成長ジュブナイルストーリー。
最近の傑作邦画には高確率でいる井浦新と尾野真千子、この組み合わせは見逃せない。
主人公のあみ子を演じた大沢一菜は今作が演技初挑戦。

小学生の女の子・あみ子には気になっているものがある。
お母さんの大きなホクロ、お兄ちゃんの十円ハゲ、同級生のノリくん、そして、生まれてくる赤ちゃん。
最近のお母さんは少し怒り気味、赤ちゃんも産まれそうだったのに、赤ちゃんはいなくなってしまった。
お母さんは少し優しくなった、そんなお母さんのために、死んでしまったけど、確かに生まれてきた弟のためにお墓を作ってあげた。
でもお母さんは泣き崩れた、それからお兄ちゃんは不良になった、お父さんもちょっと冷たい。
中学生になると、周りは少し大人になったのに、あみ子は小さいまま。
そんな少女の日常は、どこへ向かうのだろう。

少し不思議で、でも懐かしくもあり、何よりあみ子を中心とした世界を描いたジュブナイル・ノスタルジー作品。
子供にしか見えない、大人にしかわからない、あみ子だから見える世界。
それらがあみ子の周囲の人物、そして何よりあみ子自身の目線でもって繊細に、でも確かに描写してくる巧妙さ。

お母さんのホクロの大きさが違って見えたり、気になるノリくんの名前を知らなかったり、幼馴染の顔も名前も知らなかったり。
チョコクッキーのチョコだけ舐めたり、鳥の羽ばたきをお化けと勘違いしたり、相手のいないトランシーバーに声をかけたり。
そんなあみ子の行動が、周りを変えたりだとか、あみ子自身が大人になったりだとかはないけど、いつか大人になるのかもしれない、このまま見守っていたい、どうかそのまま自由に成長してほしい。
そんな思いを感じさせ、ラストで海に浮かぶお化けたちに向かって手を振るあみ子に成長を感じさせるにまで至っていました。

井浦新も尾野真千子ももう安定、安定すぎて逆に怖い、演技力の底が全く見えないこのお二人。
尾野真千子の方は、不器用ながらにあみ子を育て、生まれてくるはずだった自分の子供を失い、あみ子の、子供だからこその純粋な感情は大人にとって残酷な現実として突き刺さってくるということ、それを受けた大人の切なく痛々しい感情を表現していました。
井浦新も、2人の父親として、良く言えば優しく朗らかに、悪く言うと放任して時に疎ましく感じたら、強い力でないにしろ、手を使うことしかできない、情けなさともまた違う、不完全な大人の姿を演じていました。

そして大沢一菜、おそらく限りなく自然体に近い姿、というかそうでなければ表現力の鬼すぎて怖い。
ノリくんと2人きりになった保健室の何気ない行動の数々は、カメラを長回しにしたアドリブシーンだったのかななんて思ったり。

とにもかくにも、期待していた作品が期待通りでよかったなという感じです。
Jun潤

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