マーフィー

こちらあみ子のマーフィーのネタバレレビュー・内容・結末

こちらあみ子(2022年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

2023/02/05鑑賞。

「なんで誰も教えてくれなかったんじゃろう。いっつもあみ子に秘密にするね。絶対みんな秘密にするよね」


はっきり説明されないと分からないのに、
誰にも説明されない。

だからあみ子にとって全てがただただ事実でしかないのだろうと思った。
弟(妹)が死んだ、引っ越した、親と別れた...
打たれ強いと捉えれることもできるかもしれないけど、
事実とあみ子の感情の間を補完するはすのとても大事な情報が説明されないがために、あみ子にとっては事実でしかないのだと私は思う。
その情報は普通は周りの雰囲気からなんとなく感じ取ったりして得るものなんだろうけど、
あみ子にはそれができないから、説明が必要だったのかなと。

カメラを捨てたのも、「撮らなくていいです」と言われたからだろうか。
そして弟の墓をたてたのも、「生き物が亡くなったらお墓を作ってあげる」と教えてもらったことをやっただけだろうか。

「(のり君から)気持ち悪いがられても懲りんかった」と坊主頭から伝えられたところで、
「どこが気持ち悪い?」と聞く場面。
気持ち悪いことをしていたことをちゃんと教えてもらえた場面。
唯一扉が開きかけたあの瞬間。さらに説明をもらえるチャンスだった瞬間。
でもそれは坊主頭の優しさなのか、当の本人は気持ち悪いと思っていないのか、
「わしだけの秘密じゃ」と結局説明されなかった。
また全ては分からないまま。

ラストの「だいじょうぶじゃ」は「辛いことがあっても強く生きる子」ではなくて、「別に全部ただの事実だから大丈夫も何もない」ように思えた。


さゆりのホクロが気になってしょうがないのも、
ビスケットのチョコだけを舐めるのも、
同じ「落ちんかね」ってことなんだと思う。


「幽霊はいた」でいいかなと思う。
結局鳥だったけど、あみ子の頭の中からずっと離れない音、
兄が壊した鉢植えの中に残っていたのが「生まれる前の卵」、
投げられた卵は割れずに気に挟まったまま、
これはもう弟(妹)の霊でいいわ。


大沢一菜の才能が凄すぎる。
じっと見つめるあの目、マックス自然体の凄すぎる演技。全てにおいて天才。
パンフレットの撮影の記録を読んでると、どこまでも自由に、自分を出し切った姿やったんやなと確信した。
10歳前後で制作陣の心を掴む無垢な姿とカリスマ。
全て終わってスタッフを労い、「じゃあな」って言って帰るとか格好良すぎる。
監督との対談も読んだけど話すこと何もかもが才能の塊だった。
そしてそんな大役者大沢一菜を大開放して映像に残した森井監督も凄すぎる。
このまま最高の人間になってほしい。

「THE子ども」と言わんばかりの、エネルギッシュなシーンが最高。
「台所の椅子からぬるぬる落ちて、床に寝転がる」ところをはじめとする、あみ子が世界を全身で味わうような、エネルギーに満ち溢れたシーンの数々。
観てるだけで楽しいし、元気になる。

音、リズム、効果音
とうもろこしが落ちる音、ビスケットを舐める音、みかんを投げてキャッチする音、あみ子の足音、カエルやイモリの動く音...
ひとつひとつの効果音がとても気持ちいい。映画館で観てよかった。
音楽に合わせた階段を降りる動きや途中まで合ってる側転の動き。完全には一致していないところがより自然に見える。
走り去ったバイク群のエンジン音が入るタイミングも絶妙。
足音から始まるミュージカルシーンもよかった。

パンフレット読んだらよりカメラの撮り方や音楽の設定に驚いた。
「亡くなったあみ子のお母さんの視点」があると思ってもう一度作品を観ると、また思うことが違うのだろう。Blu-ray買お。メイキングもめちゃくちゃ観たいし。




余談だけどあの鳥ハトだったらまたすぐ戻ってくるから!ハトの帰巣本能めちゃくちゃやっかいだから!!



【ムービーウォッチメン映画評を聞いて】
おばあちゃんちの近くの砂浜と、のり君にビスケットをあげるシーンの川、
やっぱり同じですよねー!!!!状況の違いが最高に切ない!!!
マーフィー

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