映画好きの柴犬

こちらあみ子の映画好きの柴犬のレビュー・感想・評価

こちらあみ子(2022年製作の映画)
3.9
応答したりしなかったりがちょうどいい(かも?)

 周りとのコミュニケーションが取れないちょっと変わった子・田中あみ子(大沢一菜)の何気ない言動で崩壊していく家庭を、あみ子本人の目線で描く。

 昨年、絶賛の声をよく耳にした本作。内容はよく知らず、無邪気な子供の話かな〜ぐらいの感じで見始めたら、これがなかなかしんどかった。同じ今村夏子原作の「星の子」でも、ディスコミュニケーションをテーマに、宗教にハマった両親と社会の狭間に立つ宗教二世の苦悩を描いていた。どちらも、元凶となる本人には一切悪気がないから気持ちの持って行きどころに困るし、物語としてなんかしらの解決策も示されないからモヤる。本作はあみ子目線なので、全体になんとなくほんわかした雰囲気なんだけど、起こっていることは相当厳しい。

 家族という密な関係の中では、あみ子のような存在を許容するのは難しいのだろう。特にお母さん(尾野真千子)との関係がね。お母さんを責めることはもちろんできないんだけど、お母さんの生真面目な性格があみ子と相性最悪だった。実の親子でも難しいのに、義理の母となるとなおさら。

 お父さん(井浦新)は頼りなさが目についてしまうんだけど、事件さえ起こらなければお父さんのスルースキルがちょうどいい緩衝材になってたんだろうと思う。まあ、お父さんなりに家族の狭間で現状維持しようとして頑張ってたんだろうなと思いたい。結果論的には、お父さんの最大の失敗はお母さんを家族に迎え入れたことで、最後の決断は多分次善的正解だと思う。

 お兄ちゃんは、登場人物の中では多分一番あみ子の世界を理解できるひと。だけど、お兄ちゃんにはお兄ちゃんの世界が家族の外にできてしまったし、それは責められない(友達を選べよとは思う)。

 子供達の演技は素晴らしいけど、あみ子役大沢一菜の目力と、坊主頭役橘高亨牧の朗らかさが印象深い。