りょう

復讐者たちのりょうのレビュー・感想・評価

復讐者たち(2020年製作の映画)
3.2
 ナチスの残党を処刑していたユダヤ旅団というものは何となく知識としてありましたが、過激派組織のナカムと600万のドイツ人殺害計画“プランA”の存在までは…無知でした。
 殺戮と復讐の連鎖という戦争や地域紛争に特有の悲惨な物語は、映画の普遍的なテーマとして、永遠に描くことをやめてはいけないと思います。ただ、それを史実に忠実に描くのか、あくまでフィクションとして創作するのかについては、強調すべきテーマなどの特性によって判断されるものと思います。
 その意味で、この作品の冒頭に表示される“Based On A True Story”は、完全に結末を想像させるものになっているので、うまい演出とは思えませんでした。戦後のニュルンベルクでドイツ人が大量に殺害されたという史実がないことは誰にでもわかるからです。ラストシーンの衝撃的な描写もありますが、仮にフィクションとして観ていれば、かなりのインパクトになったはずです。
 スパイ映画のような要素もあるので、いくらでもスリリングなシーンを用意できそうなものの、全体の描写がエンタメ的であるにもかかわらず、なんとなく中途半端な雰囲気のまま進行しています。前半でマックスに復讐心を宿らせる過程を丁寧に描いているので、「やるのか、やらないのか?」というニュアンスがあっただけに、とても残念でした。
 アンナを演じたシルビア・フークスは、謎めいた雰囲気と美しさが印象的で、登場人物が少ないながらも、ほぼ紅一点の存在感が際立っていました。
 ナチスのホロコーストの悲惨な記憶は、欧州やイスラエルの当事国でなければ理解・共有できない根深さがあるのかもしれません。それを世界に的確に伝承できる映画が多く製作されることを願います。当然に日本も核兵器の非人道性を映画をつうじて世界に発信していく義務があると思いますが、そうした作品が意外なほど少ないのが残念です。
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