緑青

ナショナル・シアター・ライブ「ロミオとジュリエット」の緑青のレビュー・感想・評価

3.9
素晴らしかった。演劇と映像作品のぎりぎりのところを見事に歩く。
『ロミオとジュリエット』という戯曲は、作中で命を落とす全ての若者たちを、あらゆる意味で守るべきだった(守れなかった)大人たちに宛てた物語だったのだなとこの歳になってやっと、実感を持って理解した。若者が、猛る熱情、狭窄な視野、思い込みの激しさ、経験が浅いがゆえの不安や動揺、それらを持つゆえに悩み迷って道を違えてゆくのは、きっと自分自身では防ぎようのないことなのだと思う。それがどれだけ未熟で馬鹿馬鹿しく大袈裟に見えたとしても、それが若いということだから。この芝居は特に、若き者たちが「名前」(属性)で誰かを憎んだり殺し合ったり愛を阻まれたり命を落とすのは、そうならないでもよかった世界をその世代まで作り得なかった「大人たち」に、背負うべき責任があるんだよ、と言って聞かせるような演出だった。
ここまでくるともうシェイクスピアの脚本というのは抽象化されて、現代においても悲劇の産まれるあらゆる場面について描いているように見えてくる。親から極端な抑圧を受けること、同性を愛する故に理由なく迫害されること、属性に縛られること、自分と異なる「幸福」の価値観を強要されること。どこまでも詩的なセリフの中にあるナイフのような鋭い切実さと、場の雰囲気や表情がもたらす肌身に迫る生々しい実感が、映像として作られたためにより一層深くなっているように思った。
シェイクスピアって日々更新されていくゆえに永遠なのかしら。良いものを観ました。
緑青

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