ヒノモト

東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパートのヒノモトのレビュー・感想・評価

3.9
先週、今作の存在を知って、急遽時間を作って観に行きました。
公式オリンピック記録映画にぶつけて、再上映されたことに深い信念を感じました。

1964年のオリンピック開発の一環で建築された都営霞ヶ丘アパートは国立競技場に隣接したところにあって、建物の老朽化とともに住人も高齢者の割合が多くなっていたところに、東京都から立ち退きのお願いが届き、立ち退き期限までの住人たちを追い続けたドキュメンタリー作品です。

ドキュメンタリー映画にありがちなテロップやナレーションによる説明がほとんどなく、住人たちの住まいや近隣にある小さな商店、そして東京都に対しての反対意見陳述などを盛り込みつつ、それぞれの思いや振る舞いを固定カメラによって、場所としての空気感を客観的に切り取る感覚があって、説明的な言葉がなくても、引っ越すことに精神的に負担を感じる高齢者の思いはくみ取ることができる。

映画内では語られない細かなニュアンスは、公式冊子にて補完することができるのですが、この冊子に書かれた詳細な情報を上映時間を延ばしてでも映画内に織り込むことができたなら、日本のみならず世界各国の映画祭に持ち込めるメッセージ性の高い映画として、昇華できた気がしてなりませんでした。

長年に渡り住み続けている方々同士のコミュニティが形成されていて、住み替えによってそれが散り散りになってしまうことへの不安、新たな居住地での居心地の悪さ、引っ越し自体の荷造りや廃棄などの物理的作業の負担、土地としての思い出との別離、たくさんの悲喜こもごもが映し出されて、観ていて苦しい部分も多かったです。

そして、その元凶にある新国立競技場の是非、強いては東京オリンピックの開催自体の是非にも直接的にリンクする問題でもあって、東京都や国の対応が正しいのかどうかの疑問も残る。

東京という街はスクラップ&ビルドを繰り返し、発展を遂げた街ではあるのですが、それが本当の意味で住む人たちの意向をくみ取れた開発ではないし、建設会社などの利権も大きく絡む問題ではあるでしょうし、慈善事業になりきれないのはわかるのですが、今回の事象については、せめて個人の事情にあった引っ越し作業のバックアップとか、引っ越し先の柔軟な対応など、もう少し寄り添った心配りができる世の中であってほしいと思いました。

現在公開中のオリンピック公式記録映画も必要とは思いますが、その開催のためだけに犠牲となってしまった人たちのこちらのドキュメンタリー映画もそれに匹敵する大切な作品だと感じます。
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