きゅうげん

インフル病みのペトロフ家のきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

インフル病みのペトロフ家(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

「病気のときに見る夢」という慣用句のための映画。
ホリデーシーズンのロシアにて、インフルエンザの熱に浮かされたペトロフさん一家とその愉快な仲間たちを、虚実入り乱れる夢幻的世界観で描く意欲作です。
めくるめく視点人物の転換や、現実と妄想と小説と過去とを飛び回る作劇、ジャンル横断的な演出など、八面六臂のナンセンスな映画的アプローチに観ているこちらも悪夢トリップ。

それでいて、現在(舞台は2000年代ですが)のロシアにおける歴史・政治・文化的な批評性もストレートに前景化しつつ、家族関係の機微や視点人物の意外な深掘りなども上手にこなし、等身大で身につまされるドラマ性も忘れてません。
主人公ペトロフ自身の、神話的な白昼夢やモデルにされた短編作品、あるいは自らの幼少体験など、潜在的な自意識はそんなメッセージ性の複雑な交差のうえに成り立っており、彼の描く“マンガ”がこの映画に回帰するのは、とても意味深長です。
裏主人公とも言えるマリーナやトリックスター的ギミックの棺にも、サプライズ的なオチがついたからもう大満足。

Blu-ray未販売&原作小説未翻訳という、風邪をひきかねない冷遇っぷりですが、なかなか偏愛できる秀作です。
……ところでキャストやスタッフの現況をみると、かたや初宇宙ロケの国策映画に出演、かたやウクライナ侵攻に反発し亡命と、なかなか厳しいロシア映画業界事情が……。