Kei

MEMORIA メモリアのKeiのネタバレレビュー・内容・結末

MEMORIA メモリア(2021年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の作品を初鑑賞。
本作品のテーマは「表現手段の僅少さによるもどかしさ」だと考える。
主人公のジェシカは英語が第一言語であるがコロンビアでスペイン語を用いて生活している。
言語は、現代私たちが持つ表現手段の中で比較的思考や感情の伝達を容易に行うことが出来る手段であるが、第二言語であるスペイン語を使用するジェシカはスペイン語の語彙や表現の豊富さに自信がないからか、常に怯えているような様子だ。
そんなジェシカは物語の冒頭で就寝中に大きな音を聞く。
ジェシカは大きくてどこか恐ろしいその音の正体を明らかにするために知り合いの音響のスペシャリストに音の再現を依頼する。
しかし、そこで音を相手に伝えることは言語という媒体を介さなければ困難であるということに気がつく。
スペイン語話者しか周囲にいないという、言語ですら自身の表現がままならない環境に身を置いているため、心の中にモヤモヤと存在する音の正体を正確に他者に伝えられないジェシカは一層強い不安感を覚える。
物語はここで一旦切り替わり、ある村で一人の男と出会う。
そこで男は自身を「ハードディスク」と呼びジェシカを「アンテナ」と呼んだ。
男とジェシカが部屋で手を重ねると、男が言った通りに男という「ハードディスク」から、ジェシカという「アンテナ」に対して音を含む男の記憶が流れ込んだ。
ここにおいてジェシカは音は音として直接伝えられることを知り「音を直接かつ正確に伝えられない不安」を払拭し、その安堵から涙を流した。
このように本作品は、表現手段が限られているが故に自身の内にあるものを他者に伝えられないというもどかしさや不安を描いていると思う。
本作品は、テーマがあまり語られないものであり且つ誰しもがある程度共感出来るものであるという点は評価出来る点だが、鑑賞者が解釈を行う余白が多すぎるという点は評価が低い点だ。
本作品には妹と記憶にずれがある話や終盤の宇宙船の話があるが、自分にはそれらの内容を含めて一貫性をもたせた内容の理解(本作品には内容に一貫性があるという前提)をすることは出来なかった。
他の方のレビューを拝見すると様々な異なる解釈があるため、それらを参考にしもう一度鑑賞した上で再度レビューしようと思う。
演技に関しては、ティルダ・スウィントンはこれまで美女役でしか観たことがなかったため本作品のような役回りは新鮮で面白かった。
どのような役でも出来る俳優なのだと思った。
本監督作品ではタイ初パルムドール受賞の「ブンミおじさんの森」があるので、そちらも是非鑑賞してみようと思う。
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