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アヘドの膝のAJAPARATIONFILMのネタバレレビュー・内容・結末

アヘドの膝(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

7月6日から開幕されたカンヌ国際映画祭の対面都市試写「Cannes in the city」(こちらは7月8日から)に参加した。東京では美学校試写室とユーロライブで行われていたのだが、マルシェがオンライン登録しか叶わなかった状況を考えてみると、対面試写で作品を見る機会は大変ありがたい(とはいえキャンセルなどの変動も激しいが)。
それはさておき、対面試写で20本の映画を見せていただいた。コンペ作品は2本、とりわけおすすめなのは日本でも2019年にベルリン国際映画祭で銀熊賞を取った『シノニムズ』がアンスティチュ・フランセ日本「批評月間」の中でオリヴィエ・ペール氏のセレクションにより上映されたことで知られるようになったナダヴ・ラピド監督の新作『Le Genou d’Ahed』であろう。ナダヴ・ラピド監督は、イスラエル出身の映画監督で、現在はフランスに在住している映画監督である。映画作品にも濃く現れているのだが、軍隊に従軍した後イスラエルから亡命し作家なのである。『シノニムズ』では、主人公の男がイスラエルからフランスへ帰化しようとする中でフランスという国家の中でもがき苦しみ、その帰化が果たすことのできない展開であるのだが、それは男のかつての従軍経験に背景が存在していることが示唆されている。今作も同様に軍隊従軍とその中で強いられる虚栄な愛国心に絶望する男が描かれる。『シノニムズ』はフランス語であるが、新作はヘブライ語で制作されている。
映画監督である男Yは、パレスチナの少女のアイコンである「Ahed」についての次回作を構想する中で、砂漠化する村に前作を上映する旅に出る。その中で文化省の役人との出会いを経て、自らの母親が死んだという事実と、軍隊経験の中でもたらされる故郷の喪失や愛国心という虚構という二つの苦しみに向き合いながら、次回作の構想に苦しむというストーリーである。死んだ母親にヴィデオレターを送る形で展開されていく物語は、やがてこの映画の崩壊を示唆する形で終了する。映画そのものの意義を問うという形にあるのはやはり監督自身の亡命という意識が前作から貫かれる形で存在しているが故なのであろう。賛否は分かれるだろうが、あの審査員団に向けて抽象でありながら壮大な寓話をコンペティションに出品したラピド監督に私個人として極めて敬意を表したいものである。
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