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ベルイマン島にてのらのレビュー・感想・評価

ベルイマン島にて(2021年製作の映画)
3.7
フォーレ島の楽園のような美しさにまず心を奪われる。『ある結婚の風景』のイメージからこの地で夫婦の地味な会話劇が展開されるのかと思いきや、割とマジカルな"創作"についてのドラマがメインに描かれており、夫婦関係の移ろいよりもどちらかというとそちらに引き込まれる。映画は、主人公クリスの創作過程を通して、次第に現実と想像が混じり合っていく。これは創作物の中に実生活からの影響を隠さないミア・ハンセン=ラブ監督自身の創作過程のイメージを表しているのだろう。

本作はベルイマンにオマージュを捧げつつも、ベルイマンに一定の距離を置いているのも構造として面白かった。クリスは、ベルイマン島にて彼の霊感を受けるような形で脚本を完成させるのではなく、あらゆる場所でベルイマンの息吹を感じつつもあくまで自分の生活の中から"自分の創作物"を確立していく。また劇中、クリスは「9人の子どもがいながら5人の母たちに育児を任せきりであったから、50本弱もの映画を撮ることができた」というベルイマンの私生活に対して「好きなアーティストにはいい人でいてほしい」と批判的に語っている。これは、"作家の私生活と作品は区別すべきか"という微妙な問題の一つの回答にもなっているが、子供を持つ女性の創作者としての立場を思うと頷けるところがある。
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