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夜明けのすべてのらのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
見知らぬ誰かや遠くの誰か、すれ違う人々、近くの友人、家族、同僚、クラスメートに思いを馳せ自分を見つめ直すきっかけになるような素晴らしい映画だった。

中心から外れざるを得ない、周縁に近い場所で生きる人々の繊細な感覚と営みを同じ高さから掬いあげながら、いわゆる「傷の舐め合い」とはまったく違う(登場人物同士だけでなく「観客」と「映画」の関係も含めて)、そして恋愛ともまた違う支え合いの純粋な美しさをとらえている。

同じ高さではあるが近づきすぎない距離感が絶妙だ。どんなに解ろうと思っても他人には絶対に理解できない部分があるはずだから。そういう意味では、あまり寄りすぎずに人物をとらえつつ映えない景色やなんでもない場面の些細な美しさまで拾いあげるカメラは、映画のテーマやプロットと完璧に共鳴している。16ミリフィルムを用いたミニマルな撮影・映像でもこれほど多彩な表現ができる。

ユーモアセンスも抜群で、登場人物の何気ないやり取り(おしゃべり)が楽しい。前作の『ケイコ 目を澄ませて』と比較すると言葉数が多く、冒頭と終盤には長めのモノローグもある。それがまったく野暮なものに感じられないのは、言葉(声)を撮る映画としての必然性があるからだ。
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