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アイス・ロードのnetfilmsのレビュー・感想・評価

アイス・ロード(2021年製作の映画)
3.6
 リーアム・ニーソンと言えばかつて『シンドラーのリスト』や『マイケル・コリンズ』で演技賞を総なめにし、名優の名を欲しいままにしてきたし、『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』のクワイ=ガン・ジン役なども思い出されるが、すっかり老齢に差し掛かった頃から急にアクション映画への出演が増えた。そのきっかけとなったのは『96時間』あたりからだろうか。巻き込まれ型サスペンスの名作として知られる『96時間』から、リーアム・ニーソンは世界各地で様々な事件やトラブルに巻き込まれてきた。今作でも爆発事故で26名が鉱山の地下に閉じ込められるという大事故が発生。当初は事故から遠く離れたアメリカの田舎町でトラック稼業に汗を流していたマイク・マッキャン(リーアム・ニーソン)だったが、不況の煽りを受けて弟ともどもクビとなり、20万ドルの報酬に目が眩み、制限時間30時間以内という過酷なミッションに挑むのだ。女っ気がなく、PTSDの弟の面倒を見る武骨な労働者の姿というのが今回のリーアムの役柄である。一見してロバート・アルドリッチの『北国の帝王』とアンリ=ジョルジュ・クルーゾーの『恐怖の報酬』を足して2で割ったような映画ながら、その肌触りは80年代後半の冷戦時代のマッチョだったハリウッド映画をも想起させる。

 非常にアメリカ的な映画ながら撮影地をカナダとしたのは、いつトラックの重みで氷が割れるともわからない「アイス・ロード」の設定がアメリカにはないからだろう。カナダの中でも最も極寒の地に現れるこの「アイス・ロード」は1月~3月の真冬の時期は重く分厚い氷がびっしりと張るものの、春になれば道の体を為さない危険な道となるのは明らかだ。この地を大胆に時に滑らかに走るために、マッキャンやタントゥ(アンバー・ミッドサンダー)ら曲者たちがジム・ゴールデンロッド(ウォーレンス・フィッシュバーン)の元に集められるのだ。実際に予告編でも観られたように、総重量30トンの大型トラックが、春になって溶け始めた氷上を走るのだが、映画は邦題『アイス・ロード』(原題もTHE ICE ROAD)という割にはあまり自然の脅威 vs 人間の構図にはならなくて微妙に拍子抜けしてしまった。確かに触りには人間を嘲笑うようなアイス・ロードの恐怖が出て来るものの、その後は誰が賞金を独り占め出来るかといった死のレースや各人の深謀遠慮を駆使した騙し合いに終始する。その意味ではラッセル・クロウ主演の『アオラレ』で煽り運転を期待して見事に裏切られた苦い思いにも近い。

 然しながらそれでも今作を結末まで夢中で観てしまったのは、マイク・マッキャンと整備の腕前はプロ級で、イラク派兵の退役軍人であることがさりげなく伝えられたガーティ(マーカス・トーマス)との涙ぐましい兄弟愛や、ブルー・カラーの白人たちの氷上と地下双方でのプロフェッショナリズムに他ならない。心なしか彼らを会社の駒としてしか見ていない人でなしたちの描写が80年代の旧ソ連兵のような冷たさで描かれているのは笑ってしまうが(名脇役であるマット・マッコイが今回もクズっぷり全開です)、26人の大切な命を守るために奮闘するのは、白人も黒人も男性も女性もみな同じ思いなのだ。撮影監督は『ミスティック・リバー』以降のイーストウッド作品のほとんどを手掛けるトム・スターンで、氷上でも夕陽の差し込む角度など実に緻密に計算されている。心なしか製作陣にはリーアム・ニーソンよりもクリント・イーストウッドにこそ主演を務めて欲しかったのではと思わなくもないが、そうだとすれば20年遅かった。だが苦み走った状況を顔色一つ変えず、ひたすら黙々と任務に励むリーアム・ニーソンの人呼んで「巻き込まれ型の帝王」の本領発揮だ。
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