櫻イミト

十字架の男の櫻イミトのレビュー・感想・評価

十字架の男(1943年製作の映画)
3.0
イタリア・ファシスト党で神話化された従軍司祭レジナルド・ジュリアーニを描くプロパガンダ映画。ロッセリーニ監督最初の長編 “ファシスト党軍部三部作”の三本目。

ジュリアーニ神父は熱烈なムッソリーニ政権支持者で、著書「十字架と剣」ではイタリアのエチオピア侵攻を異端者や異教徒に対する新たな宗教聖戦であるとし、キリストとローマの名の下での殉教を説いた。従軍司祭として赴いたエチオピア戦線での死(1936)は、宗教的美徳と軍事的美徳の統合としてファシスト党政権から称えられ多くの道路や広場に彼の名が冠された。

映画では舞台をエチオピアからウクライナに置き換え、神父の崇高な戦場死を描いている。前半の殆どは苛烈な戦場シーン。後半には、避難した農家での神父と負傷兵、村の妊婦、そして敵軍ロシアの負傷兵とのドラマが展開する。ジュリアーニ神父役のルックは本人と非常に良く似ていた。

ロッセリーニ監督は次作「無防備都市」(1945) でネオリアリズモを開幕するが、既に本作でも配役の殆どに素人を起用しその端緒が伺える。

見どころは終盤の360度パンカット。本作での神父は聖人の立ち位置であり内面描写が殆どなされない中で、最後に戦場を360度見渡す主観ショットには彼の何たるかが象徴されていたように思う。それは善悪を超えた神の視点である。

個人的にプロパガンダ映画は好物なのだが、本作は戦場シーンが長すぎて思想宣伝色が見えにくい。そもそもカトリックとファシズムの美徳を両立させることに無理があるので中途半端なのは仕方ないのかもしれない。

ただし本作から滲み出るキリスト教主義と愛国主義はロッセリーニ監督の原点なのだと再認識した。後のフィルモグラフィーを解釈する上で大きな参考になる一本となった。

※ロッセリーニ監督“ファシスト党軍部三部作”
【海軍】「白い船」(1941)
【空軍】「ギリシャからの帰還」(1941)
【陸軍】「十字架の男」(1943)
櫻イミト

櫻イミト