んぎ

春原さんのうたのんぎのレビュー・感想・評価

春原さんのうた(2021年製作の映画)
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物語も感情も安易には読み取れない、ゆるやかに流れる夏の時間のなかで、人と人のあいだを風が吹きぬける、言ってしまえばただそれだけの映画である。しかし画面にはつねに喪失の悲しみが横たわっている。カメラが実体として捉えるのはいわば残された人たちであり、ほとんどフィックスされた画面が余白のある彼女らの人生を淡々と記録する。いなくなった人を心のどこかで想い、時に笑ってたまに泣く。だがその様子は(発話の"自然な"ぎこちなさもあいまって)妙に"不自然"だ。マスクによって表情が隠匿されるからだろうか。彼女らを取り巻く風通しの良さも、心地よくもある一方でどこか薄気味悪い。それはたとえば、人と人を隔てる障害物のようにも見える。私たちにとってはすっかり馴染み深いその生活様式も、映画というフィルターを通して見るとこうも不気味で空虚なものなのかと驚かされた。なにかが決定的に損なわれた世界で、他者を思いやること、それを言葉で表すこと(と、表さないこと)の在り方について、台詞に頼りすぎない演出の力で繊細に掬いとってみせていたように思う。
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