耶馬英彦

アリスとテレスのまぼろし工場の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

3.5
 中島みゆきが歌う主題歌の「心音」は、ワンコーラスだけyoutubeで公開されていて、何度か聞いて覚えてから鑑賞したのだが、おかげで感動が倍増した気がする。歌詞が本作品の世界観を的確に表現しているのだ。

 思春期は人格が形成される最後のときだ。気質は遺伝子によって決まり、気性は3歳くらいまでの幼少期に決まると言われている。思春期は、性格を変えるまでにはいかないが、その時期の過ごし方によって、現実との向き合い方、自分との向き合い方が決まる。思春期より前に、何かにのめり込むことが出来た人は、幸せな思春期を過ごすことが出来る。しかし大抵は、悩みと迷いの日々を送る。

 本作品に登場する中学生たちも例外ではない。第二次性徴の現れとともに、異性をはじめとする恋愛対象への興味が湧き、同時に自意識の目覚めとともに他者との関係性を極端に気にするようになる、ちょうどその頃だ。本人にとっても、周囲にとっても、もっとも厄介な年頃である。
「反抗期」などという言葉は、大人が名付けた勝手な言い草だ。本人たちは反抗しているつもりはない。ただ権威や権力やパターナリズムが鬱陶しいだけである。

 さて物語は日常から突然極限状況に移行するスタートから、再び日常に戻って思春期のひりひりする毎日が続き、そしてある出来事を機に、極限状況の秘密が明らかになるという、起承転結の典型みたいに展開する。思春期の恋が並行して進むのもいい。
 思春期の恋の最初の山場はキスだろう。小鳥が啄むようなキスから、次第に濃厚なキスへと変化していき、若い二人はその快感に夢中になる。このシーンを子供に説明する親は大変かもしれない。想像すると可笑しい。

 ストーリーも面白かったし、盛り上がるところはきちんと盛り上がるし、映像もきれいで、とても良くできた作品だと思う。ただ、タイトルが少し残念。「希望とは起きている人が見る夢に過ぎない」という哲学者の言葉が紹介されていることから分かるように、有名なギリシア哲学者の名前を思春期の男女に分けて名付けてみたのだろうが、ちょっとひねり過ぎである。中島みゆきが主題歌のタイトルを決めた時点で、映画のタイトルも同じにする英断があればよかった。
耶馬英彦

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