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モガディシュ 脱出までの14日間のsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
1990年。ソウル五輪の成功も記憶に新しい韓国は、国連への加盟を目指して多数の投票権を持つアフリカ諸国でロビー活動を展開していた。ソマリアの首都モガディシュに駐在する韓国大使ハンも、ソマリア政府上層部の支持を取り付けようと奔走。一方、韓国より20年も早くアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮も同じく国連加盟を目指しており、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていく。そんな中、ソマリアで内戦が勃発。各国の大使館は略奪や焼き討ちが始まり、大使や職員たちにも命の危険が迫る。

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声高にメッセージを届ける映画ではないものの、最終的に心温まる決着。転じて一向に解決の見えない現状の悲しさが際立つ。
南北領事館の争い以上に、当時のソマリアの腐敗っぷりに引いたし、ソマリア内戦勃発以降の政府軍/反乱軍ともども野蛮さに恐れ慄いた。外国人ならずとも逃げ出したくなるよ。

まだ冷戦時代の影が色濃い90年代初頭にあって、祖国から遠いアフリカ大陸で地球上で最も敵対している2つの国の代表者たちが、生き抜くために協力せざるを得なくなる皮肉。

公式サイトによれば、実話ベースという俄かに信じられない話を映画化するに際し、製作陣はリアリティの追求を最優先とした。文化的にも地理的にもとても距離のあるアフリカが舞台であり、さらにソマリアは現在渡航禁止国家にも含まれているため、事前の資料調査が極めて重要だったそう。

また入念なロケハンの末、ソマリアに代わるアフリカの都市を舞台として選ばれたのは西アフリカ・モロッコの都市エッサウィラ。モガディッシュをそのまま再現したような空間で3ヶ月に及ぶオールロケを敢行。撮影半年前から政府の協力を取り付け、写真資料などをもとに映画の背景と空間を作った。舗装された道路に直接土を重ね、90年代当時のソマリアの未舗装の道路を完成させ、モロッコの建物の上にソマリアの建築様式まで再現し、リアリティを高めた。さらに強烈な自然光を生かすべく、時間帯別に細かく撮影を行った。
かつての駐ソマリア大使館職員も最適なロケーションに感心したという後日談も。

リュ・スンワン監督作は「ベテラン」しか見たことなくて、「EXIT」を見逃してるのが今更惜しい。ジリジリ締め上げるような緊張感の高め方が特徴的で、張り詰めた空気にこそ生じる緩みで笑いを作るのが好きっぽい。緊迫した場面ほどコミカルな会話が混じったり。流れないトイレのシーンとか、一瞬コミカルだけどよく考えると事態がどんどん悪化して深刻さを増してるのがわかる。

ハン大使を演じた名優キム・ユンソクと、対になる北朝鮮側のリム大使を演じたホ・ジュノ。国際的なビジネスマンのようなハン大使と、威厳と貫禄で相手を説得できちゃいそうなリム大使の描き分けが面白い。

「新感染半島」のソ大尉で俺に馴染みク・ギョファン。卑怯な小心者キャラから一転、命懸けでリム大使を支え祖国に支える参事官を熱演。鑑賞後に調べるまでソ大尉とテ・ジュンギ参事官が同一人物だって気づけなかった。

個人的お気に入りになった韓国側のコン書記官を演じたチョン・マンシク。「アシュラ」「ベテラン」「7番房の奇跡」etc…話題作・傑作の名脇役っぷりは今作でも健在。人はいいが頼りないドジっ子おじさん(ドジオジ)っぷりで、劇中起きるトラブルの大半はこの人のせいなんだけど、なぜだか憎めないカワオジっぷりが良かった。

フード論者ならずとも印象に残るのは、なんといっても食事シーン。あの寄せ集めの長い食卓を囲む一同の姿は、図らずも運命共同体となった人たちの姿だし、不幸にも分断された南北の人たちの共通する部分が浮かび上がるのもいい。そもそもおかずをいっぱい並べて、みんなでつつき合って食べる食習慣。エゴマの葉の漬物(ケンニプ)が取れないシーンが印象的だし、「同じ釜の飯を食った物同士は裏切らない」の法則通り、彼らの団結の始まりに見えた。(そのすぐ後にまた亀裂エピソードがあるわけだけど、あの二人は食ってないし)

食事シーンと同じくらい重要な持病シーン💉。病気は国を選んでくれないって設定は、今作で登場人物たちが直面する災厄とも通底するし、敵対関係にあっても人道的配慮が絆を作る心温まるシーンだった(招き入れる時には散々揉めたけど)


難癖つけるなら、予告編から予想される以上の出来事がなくて、ストーリー上に驚きがない。反面、実話ベースだし分かりきった結末に向かっていく中で、映画的な面白味と説得力ある着地芸を見せてくれた。クライマックスのマッドマックスなカーアクションは見どころの一つだけど、あまりにも現実離れしすぎて、ヒリヒリとしたドラマの旨味を減じてる気もする。


46本目
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