しゆ

戦場のピアニストのしゆのレビュー・感想・評価

戦場のピアニスト(2002年製作の映画)
4.3
ユダヤ系ポーランド人の家系に生まれたピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンがドイツ軍によるホロコーストに巻き込まれていく実話をベースにした伝記。
窓から人々を見下ろす場面が多用されるのが特徴的で、下手な脚色なく残虐な行為が前触れなくあまりにもいともたやすく行われていく。劇的なアクションやグロテスクな表現ならば他の戦争映画が挙げられるけどピアノの旋律のように静かになだらかに淡々と描かれる。戦勝国のイギリス、フランスそして舞台のポーランドはさておき、なくしたい過去であるドイツも合作に協力していて国境間の戦争映像作品としての価値も大きい。
様々な人から助けを受けながら逃亡に逃亡を重ねて弱々しくなっていくシュピルマンを好演したエイドリアン・ブロディは現在も打ち破られていない29歳の最年少でのアカデミー主演男優賞を獲得していて映画界からもお墨付き。あの20ズウォティスする小さいキャンディを6個に切り分けて食べたのが家族最後の晩餐なのが切ない。
ちなみにモデルとなったシュピルマンの長男は現在日本の大学で教鞭をふるっているらしい。一気に親近感が湧いた。
ホーゼンフェルト大尉は初登場時は威圧的に見えたけどシュピルマンへの二人称代名詞は他のナチス軍と違って敬意を払ったものを使用していて、このあたりは日本語字幕のいい加減さを感じてしまった。それを知ってるかそうでないかだけでも、彼が目の前のユダヤ人をピアニストだから助けたのかそうでないかも含めて印象が大きく変わってきてしまう。色んな人のレビューを見ていくうち、大尉がシュピルマンだけでなく数多くのユダヤ人を救ってきた一方で名前を明かすと処罰の対象となるためあえてその都度名乗らなかったことや、徴兵される前は高校教師として勤めていたこと、大尉の奥さんから手紙がありシュピルマンは急いで収容所に向かったが…という経緯を知った。そのあたりの裏話は2時間半の長尺をもってしても描写しきれない部分があって全てを視聴者に曝け出さないのがまた趣きがあるけど、エンタメとしてでなく史実としてもっと知りたいと思ったなら原作小説を調べてみるのがオススメ。
監督のロマン・ポランスキー自身も壮絶な人生を送ってきていて、本作での舞台でもあるゲットーに実際に監禁され母親はドイツ人に虐殺された過去があって、彼だからこそ作れた思い入れの強い作品だったんじゃないだろうか。(余談だけど元妻はあのカルト信者による襲撃事件で有名なシャロン・テート。こちらも驚き)
劇中で流れるのはほとんどがショパンの楽曲群で、なぜその場面でそれを選曲したのかはクラシック音楽に造詣が深ければもっと味わい深い作品になるだろうなと思った。重い作品だけどまたいつか観てみたい。
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