骨折り損

流浪の月の骨折り損のレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
3.3
本当に、これでいいのか。

はっきり言って満足はしなかった。原作小説に胸を打たれて、楽しみにしていた映画だったからこそ、もっと良くなるだろうと思ってしまった。

何が足りないとかではなく、おそらく実写化に際してこの物語を再構築した監督やその周りの人たちの解釈のずれが結果的に大きな歪みを生んでいるように感じた。

そう思う理由は、映画の重要な局面で何度も感じた。その中でも、横浜流星が広瀬すずに暴力を振るった後に性行為を迫ろうとするところは顕著だった。あの演出をこの物語の中に入れ込もうとする時点で明確に小説の伝えようとしていたニュアンスと差異があった。もちろん創作物(この場合は小説)の解釈など人それぞれだが、この話においては愛の捉え方こそが主題にあって、それを描く過程に、ただ征服欲を満たしたいかまってちゃんなDV男は物語に対してかなり不足ある人物描写だ。

男の暴力と性を全面に押し出して、悲劇を説明するような展開があるから、映画を観た人の中には「禁じられた恋」とかそんな小説の意図から明後日の方向にいっちゃったような言葉が飛び出るのだろう。

映画を観て、何一つ小説の意図が伝わっていない人達がいることに妙な納得感を覚えた。

演出は説明的で、それでいて構成は人物の感情を追いにくく(特に前半)、原作を読んでいないと人物たちの行動原理はかなり共感しにくいものが多いと思った。

正直物語にはあまり没入出来なかったが、広瀬すずと松坂桃李の演技はそんな話の中でも浮いて見えるくらい各々がとても良かった。

この実写化じゃ、ロリコンだっていいじゃないみたいなそんな安っぽいテーマを感じる人もたくさんいるのだろうと思うとゾッとした。
骨折り損

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