ウエンチ25号

流浪の月のウエンチ25号のレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.5
とにかく映像が美しい。夕暮れに飛び立つ鳥たち、木漏れ日とたなびくカーテン。流れの早い雲に隠されていく太陽。頼りなげな月。照明が絞られたCafeCalico。静かな店内に響くお湯を注ぐ音。カタカタなるコーヒー茶碗。聞こえるだけで文とわかる足音。
俳優陣も素晴らしい。
何も映さず洞穴のように暗い文の瞳。他で見る松坂桃李とは全く違う。トネリコの木のようにやせて骨の出た体つき。うなだれた首は骨が突き出ている。原作の文が甦る。セリフよりその歩き方、仕草、目線で語る。最後の自分の秘密を語るシーンは圧巻。なぜか観客の自分も少しだけ背負ってきた重荷をおろした気になったなった。
更紗は傷ついた心や、幼い頃の自由な自分を隠して何とか生きている。笑っていない目で目線で繊細に広瀬すずは訴え続ける。幼い更紗の白鳥玉季と広瀬すずはそんなに似ていないのに、ふとした表情や角度でシンクロする。二人の横顔が重なって見える。作品が膨らむ。
多部未華子演じる谷あゆみは過去を知って、信じたい気持ちとと信じられない狭間で涙を流した。文はウソであゆみを突き放す。奥では揺らめいている洞穴のような目で。二人のすれ違いが胸をうつ。
亮のハラッとこぼれる涙が美しい。横浜流星でも嫌いになりそうな亮だが、その涙で少しだけ許せる気がする。
映画を見るときは、ストーリーがとか、俳優がとかが頭に残るが、この映画は見終わったあと、印象的なシーンがフォトブックのように頭の中に甦る。余韻に浸ってまた見たくなる。
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