ウエンチ25号

ラーゲリより愛を込めてのウエンチ25号のレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
4.5
戦争映画は基本的に嫌いである。無理やり涙をさそうような展開も大嫌いである。あまのじゃくなのか「そうきたか」と思ってしまう。
が、「ラーゲリより愛を込めて」を見て泣いた。
ヒーローではない、普通の人が描かれている。戦争とは普通に生きていくことを難しくさせる。ねじ曲げていく。小さな希望を頼りに一生懸命生きた、そのひたむきさに心うたれた。
ラーゲリは忠実に再現されていて現実味が増す。加えて白すぎる息、凍るまつ毛、ふきつける吹雪。過酷な現場なのにものともせずに雁行したキャストとスタッフ一丸となった成果。
また、俳優陣が素晴らしい。
飄々と、しかしひたむきに生きた主人公山本さんを演じた二宮和也。特に死の床についた仲間とのやり取りはテクニックを超えた演技。
ラーゲリの仲間の「生きることをやめた」松坂桃李さん演じる松田さん。
彼のナレーションではじまる物語。彼の視点から描かれているこの物語。静かな語り口は「ショーシャンクの空に」のモーガンフリーマン。「流浪の月」ではその黒目が深い洞穴の闇ようだったが、今作は白目が凍っているようで「生きることを拒否」しているかのようだった。
それまで何もしない見ているだけの彼が行動を開始した時彼の人生はまた始まった。凍える心の中に炎が灯った瞬間だ。
中島健人さんは映画の陽だまり。ホッとする存在。ケンティの面影は一切ない。
桐谷健太さんの演じる軍曹、きっと戦争では人はこんな風になるんだろうな。悲しいけど。山本さんと仲間との関わりで人に戻って心が溶けていく。
かつての上司だった安田顕さん。一番闇が深そうだった。戦争は人をここまで変えるのかと愕然とした。
故郷で帰りを待つ妻は北川景子さん。監督から「サザエさんで」と注文されたそうだ。苦労を感じさせない。が、いわゆる良妻賢母ではなく、超高速お茶目で戦後を一生懸命生きた女性として見えた。
遺書を届ける方法も泣けた。
想いは伝わる上に、どんな風に生きたのか知ることができる。生きる希望をもらえる。
この映画を見たあとには、涙の後に爽やかな風を感じる。空を見上げて「 生きているこの世界が平和であるように」と祈った。
PS
舞台挨拶で、息子役の寺尾聰さんからのコメントがまた泣ける。
「青年だった二宮くん、桃李は日本映画を代表する俳優となった」
かつて共演してからずっと見守ってくれていた。ありがたいことだ。
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