Jun潤

流浪の月のJun潤のレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.3
2022.05.17

李相日監督×広瀬すず×松坂桃李。
『悪人』『怒り』の監督と実力的に申し分ない2人が共演する2022年要注目邦画のひとつ。

15年前、家内更紗は佐伯文と出会った。
家庭の問題から心に傷を負っていた更紗は文の家に住み着き、2人は心の交流を重ねる。
しかし世間の目はそれを許さなかった。
2人は悲劇的に引き裂かれ、更紗の心の傷も明らかにされないまま、文はロリコンの汚名を着せられる。
そして現代、恋人の亮と婚約した更紗は、ある日喫茶店を経営する文と再会する。
文との日々を思い出しながら喫茶店に通う更紗だったが、亮はそれを許さなかった。
亮に暴力を振るわれた日、文は再び更紗を解放する。
そして、過去の更紗と同じように親に捨てられた梨花と交流を重ねる文のことを、世間の目が許すはずもなかった。
文と更紗が流れ着く行き先はー。

傑作邦画のインフレーションが止まらねぇ。
またも2022年ベスト入り確定の一作に出会ってしまった。

物語的には過去の事件に端を発する運命が、現代の再会から再び動き出すというもの。
こう書くとどうもサスペンスやミステリーの香りがしますが、今作は紛いもなく人間ドラマ、それも濃厚に濃厚を重ねた超・濃厚。
なので食わず嫌いを起こしたり胃もたれしたり、なかなか味がしなくて飽きてしまうかもしれないので、割と観る人を選ぶ作品かも。

被害者がいなくとも事件は起きるのか、当事者たちにとって喜劇でも周りが悲しめば悲劇なのか。

松坂桃李と広瀬すずの完成され具合が半端なく高い。
彼らの過去の出演作品だけでなく、他の邦画作品とは似ても似つかない、ある意味異彩を放つ演技。
全体的にセリフやモノローグが少なくても、キャラ同士の複雑な関係やそれを描写する表情、息遣い、体捌き。
上も下もない唯一無二今作でしか観られない、今作だからこそ観られる演技がそこにありました。

しかしなぁ…!!
多部未華子と柄本明の無駄遣い感が否めないことだけはいただけない。

さて、今作をどう表現したらいいものか、貧相な語彙力をなんとか絞り出すと、テーマは「月」と「太陽」です。

「私そんなに可哀想に見える?」
「人は見たいものを見たいように見る」
事件の被害者だからと、真実や当人の気持ちを度外視して哀れ見、同情し無理矢理にでも救おうとする。
太陽に照らされている月のように、見えているのはその人の表面だけなのに、さも全てを知っているかのように当人を語る。
自分を自分だけのものとして流れるように生きたいのに、夜空に浮かぶ月のように、誰もが目を向けてくる。
それは、死んでも隠したいことがあった文も同じだった。

そして月と対を成す太陽は、今作で言うと「親」だったのかなと思います。
育つのに必要不可欠な親、その恩恵を十分に受けられなかった更紗、文、梨花。
彼女らは周囲と何も変わらないのに、親の愛を太陽に見立て、夜にしか輝けなくなってしまった。

しかし親の期待と親への依存、陽の元で生きることしか知らない亮の本当の姿は、月の光の元でしか生きられない夜の獣だったんだと思います。

そんな愛情の欠落した者同士を繋ぐのは、果たして愛情なのか、それよりも切ないものなのか。
本当はもっと尊いのでは?本当は愛などではなく、泥沼にハマった共依存なのでは?
2人の旅路は流れ行くことができるのか、それとも、月のように同じところをくるくる回ってしまう悲痛の旅路ではないのか…。

(え、未発達なら陰茎出していいの?映倫仕事しろよ)
Jun潤

Jun潤