ブラックユーモアホフマン

ミラベルと魔法だらけの家のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

ミラベルと魔法だらけの家(2021年製作の映画)
4.4
これは完全にナメてました。

劇場で何度も予告編を見て、一人だけ能力をもらえなかったっていう設定がいかにも現代的な主人公像すぎて「はいはい、もういいよ」って思ってしまって劇場には観に行かなかったのだけど、思ったより全然よかった。面白かった。

あとなんでディズニーは劇場公開するのにピクサーはしないんだよ!観に行ってやるもんか!っていう反発心もあったかもしれない。

邦題の通り「家」にまつわる映画だった。生まれた時から住んでいる家の中を改めて冒険してみるというアイデア。その家の状況がこの家族の状況そのものを表していて、その知られざる構造が映画全体の構造ともシンクロしている。良い脚本。

ミュージカル映画としても、こんなに”らしい”のは久しぶりかもしれないぞと思うくらいちゃんとミュージカル映画だった。というのもリン=マニュエル・ミランダの音楽が今回特に素晴らしいと思った。物語の展開とキャラクターの描写が節々のメロディやリズム、歌詞やコーラスで見事に表現されていて凄かった。

ミュージカル映画って歌い出すと物語が停滞してしまうことも多いのだけど、ディズニーの黄金期のミュージカル映画はむしろちょっと脚本の弱い所を歌の良さで無理やりねじ伏せて力技で納得させちゃうようなところが上手くて、本作はそこが伝統のディズニー映画らしかった。

リン=マニュエル・ミランダや、ロペス夫妻の作る最近のディズニーソングは現代ポップソング的すぎてクラシカルな雰囲気にはどうも馴染んでないように感じてたけど、まあ今回は物語の設定的にもそういう曲調でも違和感なかったし。

あと少し思ったのは、このアンサンブルキャスト感、一人一人に違った曲調のテーマ曲がありそれぞれの見せ場がある構成の感じが、まあミュージカルによくある構成といえばそうなんだろうけど、『RENT/レント』を想起させた。もしかしたらリン=マニュエル・ミランダが『tick, tick…BOOM!』を作って改めてジョナサン・ラーソンの足跡を辿ったことが影響してたり?とか思ったり。今回クレジット見ると、リン=マニュエル・ミランダ、歌曲を作っただけじゃなく脚本にも関わってるみたいだし。

謎を振っておいて、主人公が各キャラクターに調査を行いながら真相に近づいていく構成がどこか『ズートピア』を想起させると思ったら、やはり同じくバイロン・ハワード監督だった。そして蝋燭の光の美しい演出や、(特にイサベラ周りの)振り子のように動くアクションシーンの演出なんかは『塔の上のラプンツェル』を想起するなと思ったらやはりこれもバイロン・ハワード監督なのだった。

実写映画の手持ちカメラのようなカメラワークを取り入れたり、かと思えばアニメーションでしかできないダイナミックなカメラワークもあったりと、上手い。

そしてアニメーションだけどキャラクターの演技が上手い。動き、仕草に各人物の個性がよく出てる。どうやら僕はバイロン・ハワード監督の演出が好きらしいことが今回わかった。

結局なぜミラベルだけ能力がもらえなかったのかとか、なぜ家が崩れたのか、最後なぜ魔法が戻ってきたのか、とかいうところは説明されないからモヤモヤ感は残るんだけど。でも、思ってたより全然よかったです。

【一番好きなシーン】
おばあちゃんの回想シーン。他の曲がアゲアゲなのに対して、ここだけ静かなバラードなのとかセンスえぐい。