Kumonohate

美貌に罪ありのKumonohateのレビュー・感想・評価

美貌に罪あり(1959年製作の映画)
4.7
1959年作。山本富士子(28)、若尾文子(26)、野添ひとみ(22)の大映美人女優揃い踏みに頭はクラックラ。それだけで満腹だというのに、こうした豪華さを凌駕するくらい内容が面白い。

原作がチェーホフの「桜の園」を下敷きにしているので、メイン・テーマは “時代の変化による名家の没落”。東京郊外の地主の女主人が、先祖から受け継いだ土地屋敷を守ろうとするが、若い娘たちは次々と家を出ていってしまい、団地化計画も始まって……という、高度成長経済に飲み込まれてゆく古い日本の姿が描かれる。

そんな変わりゆく当時の日本を象徴しているのが、スチュワーデスになりたいと家を出た次女(若尾文子)が居を定めた「原宿アパートメンツ」。今も原宿駅前に建つこの建物の屋上からの風景は、他に高い建物が無い一面の瓦屋根。駅には貨物列車も停車しており、変わらないのはその向こうに広がる明治神宮の森だけ。原宿に建った最初期のマンションとその周辺の景観は、変わりゆく時代の予兆を描くにはうってつけのロケーションだったのだろう。

さらに、こうしたメイン・テーマに加え、本作には 、“女性の自立” “芸道” “家族の絆” といった様々なサブ・テーマがぶち込まれている。また、3大美女に加え、杉村春子・川口浩史・川崎敬三・勝新太郎といった名優(彼らの演技も凄く良い)演じる人物の内面も、きっちりと描かれている。これら多牌気味とも思われる要素を、増村保造監督は破綻させること無くまとめあげ、しかも、わずか87分に収めている。そして、驚くべきことに、斯様に濃密でスピーディーであるにも関わらず、本作からは、日本的情緒が失われていない。無意識のうちにじわ〜っと目頭を濡れさせる、日本映画ならではの繊細さが全編に漂っている。

わずか35歳にしてこのレベル。増村保造監督本領発揮の傑作だと思う。
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