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屋根裏のアーネストのLCのレビュー・感想・評価

屋根裏のアーネスト(2023年製作の映画)
4.3
とても好き。

お化けが出てくるのだけれど、怖い描写も痛い描写もなく、寧ろお化けに心を寄せて見ることにストレスがかからなかった。素敵。

そのお化けは何故そこにいるのか、という謎を追いかけていくことにはなるのだけれど、私が見ていて良いなあと思ったのは謎解きよりも、お化けの行動範囲が広がる瞬間。

肉体を失った存在に対して今までも色々な理解がされているけど、確かに「その場から動けない」という解釈がされることもあったなあと思い出す。
主人公も同様で、「話せないようだ」「記憶もないようだ」と確認していく中で「その家を出られない」ということは事実確認を経ずに判断してたりした。
そんな主人公に「死んだら悪霊になってこんなことやりたいんだ」と話してくれる人もいるんだけど、私も同じように考えたことがある。霊体になれたら、どこまでも旅をしたい。
本作で幽霊さんは、外に出て、走ったり車に乗ったりしていた。夢が広がるぜ。

霊の確保をしようとする人もいるのだけれど、その時に「死んだ者には人権が適用されない」現実と向き合う。
攻撃し、拘束し、椅子も何もない空間に監禁し、そんな状態の霊を人々が珍しげに観察し、自分たちの都合のみが反映された命令で従わせる。
私が霊体になれたら、見つからないように気を付けないとなあ。でもそれって、きっととっても孤独。今も透明人間みたいなものだけれど、間違いなくアナザーレベルだろう。だから脅かしたりするのかもね、透明人間じゃないという実感。怖がられちゃって、結局は寂しいかもしれないけれど。本作の幽霊さんの場合、言葉を交わすこともままならないわけだし。
確保したかった人は、実際に確保できたことで、きちんと立ち止まれたんだね。自分は、確保が可能であることを証明できた。それ以上は、今は、手放す。対峙した霊に、心を寄せることができる人だった。

自分が霊体になったらと想像した時、恐らくは本作で幽霊さんに心を寄せる人々のような、霊体である自分にそのように接してくれる誰かとの出会いって獲得できるのだろうかと不安になったりする。
怖がって、或いは面白がって、拒否を示したり、逆に追いかけ回して平穏な時間を奪ったり、そういう人が大半なのかなあと、作中の色んな人の反応を見ても、そのように思える。
きっと幽霊さんにとって、生きていた頃の自分を知ろうとしてくれた主人公の姿勢は、新鮮で嬉しいものだったかもしれない。
守ろうとしたし、応援しようとしていた。たぶん、「車に乗って会いに来れる」と話す若人たちの姿は、彼にとって素直に喜べる景色だったろうな。

霊になれた時、私ならどんないたずらをするだろうとも考える。
たぶん、車の鍵とかテレビのリモコンとか、そういう物の位置を変えたりする。本読んでる人がいたら、ページ勝手にめくるとか。
不思議だけど、そうやって、霊になれた時のことを色々考えて、それでも明るい気持ちで見終えることができる、そういう作品だった。
今生きている登場人物たちに関しても、それぞれの変化をちゃんと見せてくれて賑やか。主人公と家族は、次のおうちでも仲良く過ごすんだろうな。
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