ストーリーはシンプル、だけど噛めば噛むほど味が出そうな作品。
仕事もなく酒が好きな男が、逃亡犯を匿ううち生きがいにも似たものを見出すものの、やがて破綻のときが来る。
主人公の、自分に自信がなく芸術家に遠慮もあってそれまで娘にアプローチしなかった選択。ふいに舞い降りた仮初めの友情と恋が両方失われた絶望。
つかの間の希望が去り以前よりもまして辛い日々が続いていく。可笑しくも悲しい話。観終わるとなぜか人生の素晴らしさを感じる。職もなく罪も犯しただろうが、この男の生き様を全否定はできない。
自分が抱えていて辛かった自己否定の気持ちを、他人には与えたくないという、譲れない矜持に賛同。自分のことより人のために生きるとき、彼は本気になれた。
その後は絶望ではなく、一つでも大事なものを守ったことにプライドを持って生きてほしいところ。
逃亡犯の次々と人の気持を手玉に取る様子がリアルで、本当にいそう。人物それぞれのリアリティが名作たらしめる由縁だろうか。
---あらすじ---
パリにある貧しい町ポルト・デ・リラ(リラの門)。
そこで暮らす中年のジュジュは酒飲みで職もない自分を誇れないでいる。
この町のみんなはそんな彼も受け入れていて、特にギター弾きの友人は彼にパンやワインを分けてくれる。
ジュジュがその友人の家にいると、銃を持った逃亡犯が侵入。
脅された二人は彼を地下室へ匿う。
男は新聞にも載り目下手配中。警察が辺りを探し回っている。
ジュジュはその横暴な男に親身になってやり、あだ名も付け、甲斐甲斐しく周りの世話を焼くように。
以前よりいきいきとし、酒も止まり、男のための買い出しやら仕事やらをしてまわる。
男から物をもらったり、しぐさを真似してみたりもする。
家主の友人は迷惑がっているが、警察にチクったりはしないのが主義だと言う。
ジュジュはある夜、行きつけのカフェの娘とダンスに出かけ陽気になった。
二人きりになり親密な雰囲気。そして、秘密だと言って彼女に男のことを話してしまう。
娘は二人が留守の家に忍び込み逃亡犯と出くわす。脅され、誰から聞いたのか白状。
娘は唇を奪われた上、帰された。
ジュジュがバラしたことで男と喧嘩になるが、外に飛び出したジュジュを男が追い仲直り。その間に友人宅の鍵が閉められたが、ジュジュはまた家へ入れてやった。
この男だけは唯一の友人だと言い、クズじゃないと肯定してくれる。
南仏に逃げたら、金を送ってくれるとも言う。
後日逃亡犯は娘のもとを訪れ密会。娘はすっかりほだされた。
ジュジュは娘から二人の関係を聞き、ひどく気落ちする。
自分の知らない間に二人がそんなことになっていたなんて。
そして二人が留守の夜、逃亡犯はこの家に娘を呼び出し密会。
その様子を近所の一人が目撃していた。
それを聞いた娘の父親が押しかけ、相手のことを知らないというなら警察に行くと友人に迫った。
夜になると男は偽造したパスポートを手に南仏に向けて出発することに。
ジュジュは男に頼まれ娘へ伝言を伝えると、娘は後から必ず向かうと伝えジュジュに男へ渡すようにと自分の金を預ける。
待っていた男にその金を届けると、用済みだと満足そう。
ひどいじゃないかと抗議すると、まさか娘が好きなのか、お前には無理だと笑われた。
自分の気持ちも娘の気持ちも踏みにじられたジュジュは、ついに怒り男に反抗。
もみ合いになり銃声が響いた。
ギター弾きの家に戻ったジュジュは、娘に返してやる金を手にただうなだれていた。