かなり悪いオヤジ

カード・カウンターのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

カード・カウンター(2021年製作の映画)
3.0
義憤に駆られて行動するのだが、その行動があまりにも突飛すぎて周囲が引いてしまう主人公。三島由紀夫しかり、『タクシー・ドライバー』のトラヴィスしかり、『魂のゆくえ』のトラー神父しかり....長年マーティン・スコセッシの脚本を担当してきたポール・シュレイダーが造型するキャラクターは、大体似たり寄ったりで類型化されているような気がする。過去に犯した自らの罪を罰するため自虐に走るのもシュレイダー・キャラの共通項である。

プロテスタントの中でもかなり厳格なカルヴァン派の家で生まれたシュレイダーは、親御さんの教育方針に反感を覚えながら育ったというが、シュレイダーが描く正義のためなら武力行使も厭わない主人公たちの行動を観ていると、その作風にはどこか宗教的なバイアスがかっているような気がしてならない。本作では、自らを(義賊)ウィリアム・テルと名乗るさすらいのギャンブラーを、オスカー・アイザックが演じている。

その仕組みは劇中説明されてもまったく理解出来なかったのだが、要はカード・カウントを武器に勝とうと思えばいつでも勝てるのだが、目立つのが嫌で小さく勝つことだけを狙っている、爪隠し系ギャンブラーらしいのである。このテル、スコセッシと袂を分けてからというもの、ミニシアター系作品で小ヒットをとばしているシュレイダーとどこか似ているのかも知れない。

『魂のゆくえ』、本作、そして次作『Master Gardener』とシュレイダー曰く3部作になるそうなのだが、3作ともに既に同時に撮り上げてあるそうで、ネタの旧さが気になるところ。この映画、グアンタナモにおける米兵による拷問が問題化した事件をベースにしていると思われるのだが、あれからかれこれ20年以上の月日がたっているわけで、旬のネタとはとてもいえない。そこで拷問に関わっていたために逮捕された元兵士がテルその人という設定だ。

そんなテルがなぜギャンブラーとなり、赤の他人の息子を不憫に思い、借金を立て替えようとした挙げ句、その親父の敵討ちまで..まったく感情移入ができないキャラなのである。確かにトラヴィスもテル同様の突飛な行動をするのであるが、ベトナム帰還兵としての疎外感が狂気に導いていく下りにそれなりの納得感があったはず。本作においては、大学を中退したニート小僧になぜそこまでしなきゃならんのか、全く理解に苦しむのである。

ホテルの家具やベッド、調度品をシーツでグルグル巻きにカバーしなければ、🌃眠ることもできないテル。トラー神父同様、几帳面に日記をつけている点も実に不可解。さらにポーカー大会で必ずや遭遇するウクライナ系USA野郎が一体なんのメタファーなのか、皆目検討もつかないのだ。ラストのETタッチにいたってはドン引きしてしまったのである。すべてはテルの病気演出かと思われるのだが、単なるギャンブル依存症が刑務所に入ると一時的に治る男の話なんじゃね。ブレッソンというよりジャック・ドゥミ(『天国の入江』)に近いよね。