深獣九

LAMB/ラムの深獣九のレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
4.0
最初っから最後まで、理解できない……。
だが、それがいい。大好き。

内容は理解不能なので、好きなところを挙げてゆく。なんだ、いつも通りじゃないか。

途中まで羊っ子の姿は顔しか見えない(羊である)。30分ほど経過したときにお尻が見える(羊ではない)。その後、全身がお披露目されるのだが、まずこの「何なの?」が不明瞭すぎるところがいい。不安な気分がずっと続く。

さらに、生まれた子は明らかにただの羊ではないのに、夫婦(特に妻)がすんなり受け入れ、まるで自分が産んだ子のように育て始める。そして日常が、淡々と紡がれてゆく。え? 何なん? あれ? 私が間違ってるのかな? そういう気持ちが胃の奥を重くする。脳がバグる。

だから、弟という「常識(私の)」が登場したときは、とてもほっとした。あぁ、やっと穏やかな気持ちで観られるのだなと。集中できるぞと。
だが、それも束の間。映像はまた歪み、頭に霞みがかかってゆく。おぉぉぉ、気持ち悪くて気持ちいい……。

役者について。羊はもとより犬と猫の芝居がとてもいい。かわいいだけではなく、喜びや不安など表情と仕草からはっきり伝わってくる。羊に演技指導ができること、この映画で初めて知った。演者の皆さまに助演動物賞を差し上げたい。

観ている間はずっともやもやしているのだが、ラストはもっともやもやする。伏線も回収されない。あいつ誰?
だが「はいはい最近流行りの考察強制型ね」と切り捨てるのではなく、寒々しいアイスランド高地の景色と脳のバグに揺蕩う感覚を楽しむのも一興かと。

回収はされないが、謎の映像は説明しないでわからせる力があり、映像とはこういうものだと、あらためて醍醐味を堪能した。

(追記)
他の方のレビューを読むと、童話やら絵本やらかぐや姫やら、そういうふうに楽しめると書いてあった。おっしゃるとおりと思った。
深獣九

深獣九