ボブおじさん

LAMB/ラムのボブおじさんのネタバレレビュー・内容・結末

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

アイスランドの美しい景観を背景に、少ない台詞と状況説明の元に描かれる北欧版「八日目の蟬」。

幼い娘を亡くしてた悲しみから抜け出すため、日々の仕事に没頭するマリア。ある日、飼育している羊が半人半羊の子どもを出産する。夭折(ようせつ)した娘の生まれ変わりだと都合良く解釈したマリアは、母羊から子どもを取り上げ〝アダ〟と名付け自分の子として育てる。

母羊は自分の子を返してくれと言わんばかりに窓から家の中を覗きに来るが、マリアは冷たく追い返す。自分のエゴで他者の愛する子どもを一方的に奪っただけでなく、あろうことか母羊を射殺してしまった、この〝罪深きマリア〟は、当然のように報いを受ける。自分が最も愛する2人を同時に奪われてしまうのだ。

天罰を下したのは、アダの実の父親。彼はマリアの夫を射殺しアダを取り返したのだ。復讐を果たした父親の衝撃的な容姿に目を奪われて、マリアを悲劇の女性と見てしまいがちだが、これは因果応報だ。

アダの父親からすれば、誘拐犯から子どもを取り返し、妻を殺した犯人の夫を射殺することで恨みを晴らしたのだ。一見、不条理にも思えるこの話、実は道理に合った仇討ちだ。

だが、話はここで終わらない。悲しみに暮れるマリアだが、次の瞬間ある身体の変化に気づき表情が変わる。彼女は新しい命を宿したのだ。この時、天を仰ぐマリアは何を思ったのだろうか?

北欧の白夜の元、繰り広げられた寓話的な惨劇よりも、生身の女の逞しさと強かさの方が余程ホラーに感じたのは私だけだろうか?