良質なホラーで楽しめた。自分の身体が段々と自分のものではなくなっていく恐怖。そして愛する者が形を失っていく悲哀。目に見えない存在だからこそ抗えず、抗おうとすれば更に糸が絡まり、気付かぬうちに最悪の結末へと誘われていく。
キャストの演技がかなりリアルで、放映禁止になったドキュメンタリーを観て呪いの証明をさせられてる気分になった…。様々な事象の頽廃に心が疲弊していく。人間同士の些細なやっかみや、自己中心的な願望や、逃れられない信仰の渦が一緒くたになり、死と不幸に集約されていく。
ミンがただただ可哀想。あまりに理不尽に、自分の人生の器が壊されていく。取り憑かれた演技も凄まじいせいで、彼女が味わっている地獄がどれ程のものかを痛感させられる。暗い隅っこで目を光らせて身体をくねらせてるシーンが作中で一番怖かった。もう完全に自我を失って、人間の理解の域を飛び越えた存在に取り込まれてしまったのだなと実感させられる瞬間。
後半の地獄絵図よりも、前半の微妙な違和感が散りばめられている部分の方がゾッとさせられるものが多かった。現実味のある日常風景が、じわじわと“何か”に侵食され、手に負えなくなっていく恐怖。あれは国の違いなど関係なく、背筋が震えるものなんだなと実感した。
長い歳月を掛けて積もった死者の呪いと、欲望に満ちた姿なき存在による所業の交錯により、力無き人間が犠牲となっていく。取り憑かれていく恐怖よりも、取り返しつかない程に破滅していく家族を見ているのが物悲しく、苦しかった。みんなそれぞれ、己の幸せと理想の成就を願っただけなのに、運命が破綻していく辛さが痛々しいほどに感じられる。
自分には馴染みの無い信仰や文化が、どのような脅威を持ち合わせて、どのように姿を変えて人間に降りかかるか、それを一部始終目の当たりにできるのはやっぱり興味深く面白い。本国の人たちからしたら、もっと恐怖を身近に感じて、日常にさえ侵食するような要素がたくさんあったんだろうな。
