ジャン黒糖

THE FIRST SLAM DUNKのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
4.6
あーもう!!全くもって今更だけど、昨年末に観に行っておりました!
2022年の映画ベストはこんな感じかなーとなんとなく頭に思い浮かべていたランキングを蹴散らされたし、気付けば日本アカデミー受賞までしてたぜ悪者軍団!
(昨年のマイベスト3位です!)

ということで、以下つらつらと。

【感想】
ずっと漫画でしか描かれてこなかった試合がついに、アニメで!
というコトがまんまわかるThe Birthdayによるオープニング!
ベースから始まり、そこにドラム、ギター、ボーカルと徐々に音が加わっていくところなんか、まさに湘北バスケ部のようだし、かたや最強山王が登場すると王者の貫禄が出てきて最高!

キャラが動くことで、原作以上に細かく深津がコート全体に目を配っていたこと、沢北が周囲の隙を見て一気にパスをもらいに行くところ、赤木のスクリーンからの三井の3Pシュートと桜木のオフェンスリバウンドなど、単純にバスケ映画として観てもすごくリアル!
漫画だとコマとコマの間で描かれていなかった出来事がリアルに描かれることで、互いのバスケの戦術もロジカルにわかる。

また、コマとコマの間に解釈の余地があった漫画と異なり、アニメーションだと桜木がまだバスケを始めて数ヶ月の素人であることがより鮮明にわかる。(漫画と異なり主人公フィルターもなくなった影響もあるかも)

桜木軍団たちも言ってたけど、「桜木、お前そんな素人なのに全国大会のここに立ってんのか!」と俄かに信じがたいというのが観客としても思う笑
お前、パス欲しがってるけどそんなところでそんな動きしてたらリョーちんはそりゃパス出さんわ!笑
少年漫画としてはアリだった桜木の素人さ、異質さが、動きがより鮮明、且つクリアになったアニメーションだとより目立ち、2時間で見せる映画における話の軸が桜木よりもリョータになったのもわかる。

たしかに、原作ファンの「あの場面がない!」と思う気持ちもわかる。
ただ、原作ファンの自分的には、本作は原作の"改変"ではなく、"再解釈"程度に留まっているのかな、と思った。
たとえばそれこそベンチの石田くんが、最強山王に対し死にものぐるいで戦う湘北メンバーの姿を見て泣きながら「湘北に入ってよかった…」とこぼす場面も、漫画とは若干異なる構図になっていたりする。
また、山王戦前夜、緊張する各メンバーがそれぞれのやり方で気持ちを乗り越える場面はだいぶ描写はなくなっている。
他にも、漫画屈指の名場面、三井が安西先生に再会して「バスケがしたいです…」と話す場面の鉄男たちによる一連の襲撃シーンがなかったり。
極め付けは天上天下唯我独尊男の流川がパスを出した瞬間のクダリとか、桜木が試合の最後の最後で放つあの言葉とか。

ただ、これらはすべて2時間の映画として構成するにあたり、当然意図して編集されたものであり、予告編にもあった円陣シーンを除けば、試合内容そのものを原作から著しく改変した、というよりは映画としての本作のテーマに当てはめたときに、物語の"視点"だけを変えた結果、こうなっただけ、と思った。


また、たしかに話のバランスが悪いと感じるのもわかる。
どんどん成長していく桜木にかつての教え子・谷沢を想起した安西先生が震えていた矢先、庶民シュートを盛大に外す桜木とか、沢北が湘北5人全員を抜いて決めたダンクとか、せっかく流れが湘北に来たと思ったところに炸裂する河口兄の強烈なダンクとか、山王伝家の宝刀ゾーンプレスの圧倒的な圧力とか、そういった漫画のコマ割りならではの緩急ある絶望感、漫画ならではのユニークな表情などが、すべてがフラットな"カット"として扱われるアニメ映画ゆえに逆に薄口に感じるのは否めない。
それに、イチイチ回想入ることで試合展開が鈍重になってしまうのもわかる。
でも、そんなことが気にならないぐらいとにかく「いま、自分はずっとTVアニメで描かれて来なかったIHが観られている、それも最強山王戦だ!聞こえてるか、谷沢…!」とコーフン!

たとえば同じく2022年を代表する映画『〜マーヴェリック』で裸トムのベッドでの甘ーいひとときは別に期待して観てなかったけど、それを差し引いてもあまりある大傑作だったじゃん!笑
それと同じで、話運びの悪さよりも満足が全然優っていた!!



山王側、沢北をフューチャーするにしても幼少期の父との話ではなく、当日朝?前夜?を描くのか、と思っていたら…堂本監督の名言が、映画でこんなにも素敵なラストに繋がるなんて…!
桜木軍団のエトセトラたちが観られたのも幸せ!
漫画ほどコミカルではないものの、桜木が丸ゴリに怒りすぎて背後で頭沸騰してたり、ゴリとの激しいタッチをした桜木が実は手をジンジン痛めてたことが画面の隅っこでほんの一瞬映っていたり、とか!

漫画で初めてリョータを見た時の目が冷めた感じ、あそこを深掘ってきた感じ
安西先生における谷沢、桜木における父の存在、というように少年漫画でありながら底抜けに笑えるのにビターな背景を感じさせるスラムダンク。
それを、リアル、バガボンドなども描いてきた井上雄彦さんが宮城リョータなら描ける、この納得感

越えられないハズだった壁、海に出た兄にもう帰ってくるなと言ってしまった悔い、海を眺めるリョータ、気付けば兄の年齢を超えたリョータ、そして海の向こうへ…。
兄が叶えられなかった山王への想い

お母さんとの身長差も、必ずどちらかが座っていたりすることで、リョータの大きさを最後まであえてわからせない作りも上手い。
これがあるからこそ、ドチビと言われ続けてきたリョータの存在の大きさが、ラストシーンに響く。
このラストは2008年に井上雄彦さん自ら立ち上げたスラムダンク奨学金、そして田臥選手がNBA進出して以降の日本人バスケット選手のアメリカでの活躍シーンを考えると90年代連載当時では想像もつかなかったであろう、現代だからこそ納得しやすいラスト!
沢北と対峙するのは流川じゃないの?と思うかもしれないが、ただ流川は安西先生の「日本一の高校生を目指しなさい」という言葉を否定しないラストにもなっててグッとくる。

また、リョータは亡き兄や、全国の強豪たちと対峙するプレッシャーの象徴として、心臓バクバクのとき前半彼が見ていたのが2色リストバントだったところ、後半は原作でも出てきた左手の平に置き換わっていく。
そして、その兄への引け目=囚われた過去から逃れ、日本一のPG深津へのプレッシャーも乗り越え、ひとりのバスケットプレイヤーとしてリョータが成長する決定的瞬間を、母の「行け」から彩子の「行けぇー!!」へとバトンタッチされてあのドリブルが生まれる。

最後の無音20数秒、漫画でも息を呑む場面だったけれど、本作も劇場内静まりかえってた。
ここで一気にアニメ表現が変わるのもすげぇし、あの名ゼリフがあえて無音になってるのも、手前のシーンが伏線として利いてて最高!
ただ!せめてこの場面、あの有名なハイタッチの直後、最初に音がなり始めるのはそれじゃなく、場内の歓声のほうがウェットになりすぎず良かった…!

これが、アニメは初めてだという井上雄彦先生、この技術をもってしてなにをアニメに落とし込むべきか、をきちんと考え抜いた末の映画化。
天才というか、本当にこの人は求道者なんだろうな。
底知れぬ才能、恐るべし…。

彩子さんめちゃかわいくなってたな
ジャン黒糖

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