犬里

アステロイド・シティの犬里のレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.0
ハイセンスでおしゃれで、愛嬌があって、そして人間への暖かい愛情のこもった目線を感じる優しい映画でした。
観てる時は話についていくのがやっとだったけど、鑑賞後思い返して「いい映画だったなぁ…」となる。そんな映画。

全てのシーンが切り出してポストカードとして飾れそうな美しさで、見とれてしまう。劇中劇アステロイドシティの、イエローとライトブルーの色合いが美しい。モノクロのシーンもまた、クラシックな雰囲気でバランスが美しい。
……しかし気を抜いて映像に見とれてると多重構造のストーリーに置いていかれてしまう。
妻を喪った男を演じる俳優は、現実世界では愛する人を喪ったゲイ(1950年代のアメリカでゲイとして堂々と生きることは無理)。しかし彼が演じた役を通して、癒やしを得たであろうことが描かれていると感じた。バルコニー越しに女優と会話するシーンが美しい。劇中にないシーンで喪失した者との心の交流を描き、美しい雪でその愛情を表しているのだと思った。
喪失の悲しみを描く一方で、子供たちは子供たちなりにポジティブに世界を捉えて行動しており(3人娘たちによるお葬式のシーンや、宇宙人ダンスのシーン最高)、それもまた未来への小さな希望を描いているようで良かった。

「眠らなければ目覚めることはできない」(You Can't Wake Up If You Don't Fall Asleep)については、眠ったあとの世界は虚構(劇中劇)を指しているのではと思った。
父親が子どもたちに「時間が癒やしてくれるというなどということはなく、絆創膏程度にしかならない」と言っていたのが印象的。
辛い現実に向き合い続けても癒やしを得ることは難しいが、虚構の世界で違う自分を演じる(眠る)ことによって、目覚めたあとの世界(現実)で前を向いて生きていけるということかしら。

エンドロールで流れた歌はクラシックな雰囲気だったけど、歌詞が映画のテーマそのままだなと感じたので調べたら、"You Can't Wake Up If You Don't Fall Asleep"というタイトルでこの映画のための曲みたいですね。非常に良かった。

にしても何ですかあの宇宙人は!!昔のCGみたいな現実感のないグラフィックで、音もなくスーッと登場して、明らかに画面から浮いていて、愛嬌もあって最高でしたね!?
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