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アステロイド・シティのすずきのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.3
1955年、アメリカの砂漠の真ん中にあるアステロイド・シティ。
そこはシティとは言えど、小さなモーテルとダイナー、5000年前に落ちた隕石のクレーターとアメリカ軍の宇宙研究所以外は何もない場所だった。
カメラマンのオギーは、息子ウッドロウと幼い3人の娘と共に、この町を訪れる。
超秀才のウッドロウの発明品が科学アカデミーに認められ、他の超秀才少年少女たちと共に、明日この町で授賞式を行う予定だ。
しかしオギーは、難病で入院中の妻が3週間前に亡くなった事を子供達に未だ言えずにいた。
そんな中で彼は、超秀才少女ダイナとそのシングルマザーの女優ミッジと親交を深めるが…

ウェス・アンダーソン監督最新作。
セットやミニチュアを多用し、独特の色彩と真横・真前からのショットや左右対称の構図など、作り物感を強調する彼の作風は今作も勿論健在。
本作の物語は、作中で劇中劇として扱われていて、その舞台劇「アステロイド・シティ」の制作の裏側も描かれる。
メインとして語られる物語は誰かの創作物、というメタフィクション手法もこれまでのウェス・アンダーソン作品と共通しているが、本作ではより「虚構である事」がテーマに密接に関わっていた…ような気がする。
加えて彼の演劇・役者愛が作品に現れていて、今作はいつもの彼の作品より、少し難解かも?

難解で分かりにくい脚本である事は、劇中でもクライマックスに劇中劇の舞台を抜け出した主人公オギーを演じる役者が脚本家にツッコむ。
そこからの虚構と現実がリンクする演出には燃えた。
結局、劇中劇のこんがらがった問題は、劇中現実世界の「目覚めたければ眠れ」という謎めいた言葉だけ残し、一体どういう解決になったのかはハッキリとは描かれずエピローグへと向かう。
わざと脚本をブン投げた作品。

でも、分からない事なんて、現実の人生にも多々ある(というかその方が多い)。
その最たるものは人の「死」であり、その意味は一生かかっても分からないものだろう。
答えがあるとしたら、それは死んだ人と出会える夢の中にしかない。
だから、大切な人の死の哀しみから抜け出せない主人公は、そこから目覚めて現実を生きる為に夢を見る。
我々も、分からない事だらけの世の中で生きる(目覚める)為に、虚構という夢を必要としているのだ。
私はそんな風にテーマを解釈しました。

しかし脚本はよく出来ていたけれど、あんまりコメディ的に笑えた部分は少なかったんだよなぁ。
作品の全体的にパンチ不足なのが惜しい。
新型コロナの所為で、ビル・マーレイが出演出来なかったのも痛い。
盟友オーウェン・ウィルソンも今回いなかったよね?