Jun潤

余命10年のJun潤のレビュー・感想・評価

余命10年(2022年製作の映画)
4.1
2022.03.10

ついに来ました!
2021年マイベストのトップを飾り、人生の一本にまで名を刻んだ『ヤクザと家族』の藤井道人監督が岡田惠和脚本とタッグを組み、小松菜奈×坂口健太郎主演に据えた作品がついに公開。
自身も難病を患っていた作者・小松流加による小説を映像化。

100万人に1人という難病を患った茉莉は、2年間の入院後東京の自宅に帰る。
残された時間はあと10年。
大学時代の友人・沙苗らに会い、中学の同窓会に参加するも、働きに出ることもできないし、遊びに行くこともできない。
その同窓会で再会したのは、会社を経営する父親と絶縁して上京した和人と、同じく上京しているタケルだった。
和人は働いていた会社もクビになり、同窓会で手にした中学時代の自分からの手紙を読むと、生きる気力を失い、ベランダから身を投げる。
お見舞いに訪れた茉莉は、和人に対して卑怯だと言い渡す。
そんな茉莉の言葉からちゃんと生きることを決意する和人。
茉莉、和人、タケル、沙苗は共に時間を過ごす。
その中で互いに惹かれていく茉莉と和人。
その先には悲しい別れがあると知りながらー。

「いつまで生き続けるんだろう」と「いつまで生き続けられるのだろう」。
未来への希望が大きくなっていく和人と、生きるほどに死ぬことが怖くなっていく茉莉の日々が描かれる。

病気と男女といえば、『世界の中心で愛を叫ぶ』『君の膵臓をたべたい』などの名作が多い中で、ドラマを展開させやすい一方、先も知れるし使い古されているからと、苦手とする人も多いジャンル。
僕の涙腺は脆いので全然大好物なのですが、今作はなんといっても、“映像”作品だった、これに尽きると思います。
小説や漫画、アニメでは描けない、演技、演出、音楽の総合的作品でした。

終わりが来ることを知りながら、家族で過ごす日々、茉莉たち4人が過ごす日々、茉莉と和人が過ごす日々、それらを彩る四季折々の風景。
大切な人の死を受け止める生きる人々、自分の死を見つめながら生きる茉莉。
今を楽しく生きる表情、未来に希望を馳せる表情、死に直面する表情。
そんな風景と表情の変化を飾る切なげな音楽。
映像作品だからこそできる表現、描写、演出をこれでもかと詰め込んだ作品だったと思います。

生きる希望が消えたり沸いたり、未来に想いを馳せ、働き、闘病していく茉莉。
季節は毎年同じ景色を見せてくれるけれど、徐々に変化していく日常と世界。
その描写の変化もまた細かく粋なもので、日常の風景の中にある生と死と愛が表現されていたと思います。

そして今作が放つ強烈なメッセージ。
限りある時間を生きること、その中で生きる意味を見つけること、大切な人と一緒に過ごすこと、将来を思い描くこと。
当たり前に見えて決して当たり前ではない世界、日常。
普遍的でいつの時代も描けるテーマだからこそ、丁寧に繊細に現実的に劇的に描かれる。
生きたくても生きられない、死にたくても死ねない、生かしたいのに生かせられない、そんな“できないこと”を描くことで逆説的に“できること”を描く、そんな作品でした。

演技面でも、主演2人はもちろんのこと、山田裕貴奈緒松重豊田中哲司三浦透子黒木華リリー・フランキーと、錚々たる顔ぶれが名を連ね、茉莉の日々を支え、茉莉を愛し、茉莉に愛される、その生と死から何かを得ているような、かなり現実に近い人物を演じていたと思います。

大切な人の隣で生きること、誰かを愛し、誰かに愛されること、死ぬことが怖いから、誰かと半分こにすること、生きた証を残すこと。
撮り続けたビデオは消えてしまった、病気がなければ叶えられた和人との将来を思い描いてしまった。
だけど茉莉の人生は小説として残り、和人の中にも記憶として残り続ける。
藤井道人監督によって、原作者の小坂流加さんは多くの人の心の中で生き続けるのでしょう。
Jun潤

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