マインド亀

イノセンツのマインド亀のレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.5
●北欧版『童夢』『クロニクル』という触れ込みに惹かれ鑑賞いたしました!結論から申しますと、最高のサイキックホラー&バトルです。こんなのが観たかった!そうなんです。もちろん、大友克洋の『童夢』の良さを存分に引き出し、それでいて変なエンタメ路線に走らず、恐怖と高揚感を与えてくれる、全てがちょうどよいバランスで仕上がった一作。
ちなみに、いくら『童夢』や『クロニクル』に近いと言っても流石に空中戦は出てきません。このポスター良くないですよね。あたかも重力を操ってるかのようなポスター。そりゃ『童夢』の名前が挙げられてりゃ、いつ子どもたちが無重力のように団地の間を飛び回るか、と思いますよね。でもそんなシーンはないです。それでも面白いんです。

●前半から中盤までは、サイキックホラー展開です。このホラー展開がこれまた観ていていい意味でツラい!多分配信で観てたら飛ばしたくなるような、『起こってほしくない』ことのオンパレード。それはまるで『ミッドサマー』のように、なんとなくどういう悪夢のような状況が起こるか想像できてしまい、常にヒリヒリとした不安を抱えながら映画を観てしまうんですよね。しかもそれがけっこー痛そうなヤツばっかりなんです。もうね、最初のガラスとか、ほんとに良くない(苦笑)。
私は痛いのは苦手なんですが、この映画は、ちゃんと痛いシーン(もしくは熱いシーン)をちゃんと痛く観せてくれます。映画館で、拳を握りしめながら口の中で「痛っっ!」とか「折るなっ」と何度叫んだことか…しかもそれをするのは割と倫理観とか論理とか通用しない小学校低学年くらいの子供なので、手加減とかわからなさそうなところが怖いんですよね。

●その子供の演技、演出が本当に素晴らしいの一言。演出したのは是枝裕和監督ですか!?ってくらいリアルなリアクションを大事にしながら、愛憎入り交じる表情を表現できていてすごいですこの四人。主演のイータも素晴らしいし、重度の自閉症という難しい役どころのアナも素晴らしい。アイシャの幼いのに愛情にみちた演技も素晴らしい。3人とも主演女優賞にノミネート!そしてベン、最高ですよね。子供らしさと怖さを兼ね備えていて、特に白目演技ではあの『ゴジラVSコング』の小栗旬を超えたかもしれない(笑)この四人の演技を観るだけでも十分元がとれます。
そしてその子供達が、大人の全く知らないところで、仁義なきサイキックバトルを繰り広げていた!というだけでもう百点満点なんです!

●それはそれは静かな命の取り合いなんですが、この静かで抑えめのサイキック演出は、下手すれば退屈になりかねないところ、リアルで没入感あふれており、これはもう、緻密な画作りによるところが大きいと思います。引きの絵がすでにアートのようで、そして抑えめだからこそリアルに映る、特殊効果がレベル高すぎ。心理的サイキック攻撃を喰らえば、少しは異次元ホラー的な描写にはなりますが、あくまでもリアル世界との境目にとどまり、しつこく異世界のような演出することがないので飽きないのです。

●そしてラストのサイキックバトルでは、今まで相容れなかった姉妹の共闘がめちゃくちゃグッと来るんですよね。ここでもエモーショナルな演出は全くないし、何ならこの映画は、セリフが少ない。表情や最小限の言葉でここまで高揚感あふれる展開にしているのが素晴らしいし、割と複雑なバックグラウンドの子供であろうと容赦なく落とし前をつけさせるのも、好感が持てます。むしろそうであるべきですよね。
周りが普通に子供や大人たちが遊んでいる昼下がりの午後、って中で子供たちは静かに見えないバトルをしている。静的な映像なのに、波や砂、周囲の動きで、グイグイ引き込まれます。
これがもし、どこかの国が「団地サイキックバトルはこちらが元祖でしょ」ってな感じで本作をリメイクした場合、ここまで地味なサイキックバトルに抑える事ができるのかどうか。母娘の愛とか、姉妹愛とか友情とか、派手なアクションとか、過剰にやっちゃいそうでこわい。友情の力で仲良くなって終わりそうでこわい。などと想像しても仕方がないのですが…。

●そしてもう一つ、この映画は私にとって、心に深い共感を呼び起こす要素がありました。それは、自閉症の子供を持つ親としての側面です。
特に作品中で描かれる自閉症の子供と健常者の兄弟、通称「きょうだい児」という関係は、私たち親にとって最も大切なケアすべき点として心に刻まれています。障害児を抱える親は、自然な流れとして障害児を優先的にサポートし、きょうだい児のニーズを後回しにしてしまいがちです。その結果、きょうだい児は自分自身を抑えてしまい、プレッシャーや周囲からのイジメに直面することもあります。親は平等に愛情を注ぐつもりでも、知らず知らずのうちに健常者のきょうだい児に「あなたはできるから」という負担をかけてしまい、親に甘えられない状況を作り出してしまうのです。
この作品は、このような身近な問題を生々しく描写しており、特にきょうだい児の悩みや心の葛藤をリアルに表現しています。私はこの作品を観て、まだまだ自分の子供たちに対して愛情を注ぎ続けなければならないという使命感を強く感じました。
そして自閉症のアナが、言葉を発する場面、これは、言葉が出ない自閉症の子供を持つ親として、切実な願いが結実した瞬間で、これが我が子ならとつい思ってしまう場面でもありました。アナとイータの親は、おそらくアナのことを最優先にして、仕事や住む場所を変えたのかもしれません。それぐらい親の願いは切実ですし、そういった社会の一部分をリアルに切り取られているのが素晴らしい映画でございました。
是非是非観てください!!
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