Jun潤

死刑にいたる病のJun潤のレビュー・感想・評価

死刑にいたる病(2022年製作の映画)
4.1
2022.05.06

白石和彌監督×高田亮脚本×阿部サダヲ×岡田健史。
もうポスターと予告の時点で不穏。
なんだこの阿部サダヲ、いつもの優しいおじさんはどこに行った。
語り口調は優しく、顔つきもいつも通りなのに、目がめちゃめちゃ怖い。
何を考えているのかわからないけどなにか触れちゃいけないような気もする。
すっげえ怖いけどすっげえ面白そう。

大学生の筧井雅也の元に届いた1通の手紙。
その差出人は24人を殺した連続殺人鬼・榛村大和だった。
かつて榛村が経営していたパン屋の常連だった雅也は、手紙の通り一度彼に会いに行くことを決意する。
面会室で榛村から、立件された24件のうち1件は冤罪であり、真犯人を究明してほしいと告げられる。
榛村の担当弁護士である佐村の協力を得て、独自に調査を始める雅也。
その過程で明らかとなる、榛村の常軌を逸した犯行の全容と、他の被害者とは違う1件の殺人。
雅也の求める真実は、榛村の事件を超え、想像を超える闇へと彼を誘う。

これは鳥肌モンですわ。
初っ端の凄惨な拷問シーンから阿部サダヲ演じる榛村に対するイメージはマイナスの極値。
しかし雅也の調査が進むにつれ、殺人以外の榛村を知る人たちの証言を紐解いていくにつれその印象はどんどん優しい印象へと変わっていく。
それでもなお、どこまでいっても榛村は秩序型のサイコキラーであり、それが言葉の端々から伝わってきました。

ストーリー的には過去の事件を独自の調査で追っていくというサスペンスの王道。
しかしその中核を成すのは、塀の中にいる殺人鬼とどこにでもいる普通の大学生という、異色も異色、凸凹にも程があるバディ。

雅也を主体とした調査で徐々に真相が判明していきますが、そこに見事な白石和彌マジック。
白石監督の作品には欠かせない、作品を俯瞰させる“第三者の目”。
それは今作でも健在、どころかいつもより多い…!?
榛村の犯行を彼の視点で回想するのではなく、あくまで雅也が事件に関連した人物達に話を聞いていく構成だったため、真相が明らかになっていく昂りと、その真犯人より遙かに多くの人間を榛村は殺したという不気味さに感情があっちゃこっちゃ。

そして面会室といえば仕切りのアクリル板。
その反射を使ったキャラ同士のリンクの描写が大好物なわけですが、今回はそれに加えて音の反響と、仕切りすらも超えてくる雅也と榛村のリンク。
仕切りを超えることで音の反響も映る顔も変わり、内容も相まってどっちを信じればいいのか、どっちが嘘をついているのか、真実はどこなのかについて盲目にさせる没入感を強めてきました。

演技については阿部サダヲがお強すぎたわけですが、今作でついに岡田健史の真価を見た気がします。
そのハッキリした顔立ちと真っ直ぐな目線、実直さが現れたセリフの抑揚など、今後を期待させる演者だと思っていましたが違いました。
その姿こそ彼の演技の真骨頂「鏡」だったのですね。
対面するシーンがいい例で、阿部サダヲを筆頭に岩田剛典、中山美穂、赤ペン瀧川、宮崎優と、それぞれ違う演者、今作でのキャラクター、物語上の立ち位置なのに、健史くん演じる雅也が相対すると、その感情が健史くんの表情に集約され、健史くんだけのカットでも2人分の演技を感じられました。
これは彼の実直で歪みのない演技に他の人の演技が反射されているからなんじゃないかと思いました。
今後も色んな方と共演してさらに魅力を発揮していって欲しいですね。

もしかすると「死刑にいたる病」というのは、親の愛の欠如、世間や日々に対する不満から、誰もが潜在的に患い、少しのきっかけで発症してしまう、「破壊衝動」そのものだったのではないでしょうか。
ラストシーン的に全ての元凶はやはり榛村な気もしますが、もっとどんでん返ってこういう考えに至ること自体、白石監督の思う壺だと思うとゾッとしますね…。
Jun潤

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