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死刑にいたる病のTKEのネタバレレビュー・内容・結末

死刑にいたる病(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

グロいしドキドキするし、サスペンス物としては個人的には良作に思える作品。

「孤狼の血」や「日本で一番悪い奴ら」「凶悪」等を手掛けた白石和彌監督が手掛けるだけあり、初っ端から痛々しい拷問シーンが展開されます。

この拷問・殺人を行った犯人が、今作の主演でありサイコパスな殺人者の阿部サダヲ演じる榛村大和という男。

そして、この大和に呼び出され、合計24件の殺人事件のうち最後の一件は冤罪だと告白されるのが、岡田健史演じる冴えない大学生の筧井雅也。

獄中の大和に誘導されつつ、雅也が駆け回り事件の真相を解き明かしていく…というのが今作の流れ。

この関係性は羊たちの沈黙を思い起こさせるが、この大和もレクター博士に負けず劣らずなかなかにサイコパスで「標的を見つけたら100日ほどかけて親密になり、油断したところを監禁、拷問し殺害する」というエゲツない方法で7年に渡り犯行を繰り返すも、人心掌握手段に長けており、事件を知ってもなお「あの人を嫌いになれない」という人間まで出てくるほどに羊の皮を被った狼な男。

今作はそんな狼に褒められ、導かれ、翻弄される雅也をメインに進んでいくのだが、全体的に伏線貼られまくりで、そんなにうまくいく?という展開は多い。

ただ、大和自身は別に計画してとかではなく、たまたま面白そうな展開になりそうなターゲットが近くにいたからやってみるか…程度な気持ちだったのかもと考えると、理不尽極まりなく、胸糞悪くなってくる。

その胸糞感こそがこの作品のウリであると思うので、これに関してはいい意味でしてやられたなぁ…という感想です。


何より阿部サダヲのサイコっぷりが最高で、メイクはあるとは思いますが、無表情で氷のような目つきがまさに、猫が獲物を捕らえていたぶるような容赦なさが醸し出されていて、心底怖い。

イケメンの岡田健史も、どう見ても陽キャサイドだろうが、と思ってはみたものの、自信のなさからくる卑屈さ、殺人犯に褒められ調子にのる幼稚さ、そして最後に自分を取り戻す逞しさと、冴えない大学生の雅也というキャラクタを見事に演じきっていたと思いました。


個人的に一番怖かったのは、大和を面会室に連れてくる看守の変化で、最初は余計なことを言う大和を制止し、面会を中断させているにも関わらず、途中からお勧めされた本の感想を言ったり、大和があからさまに余計なことを言っているのを容認したり、挙句の果てには面会時間の延長を勝手に許可したりと、完全に取り込まれていってるんですよね。

恐らく、現実にもこういった、他人の心に入り込んで洗脳する類の人は大勢いると思うので、自分も気をつけたいなと思いました。気をつけようと思って気をつけられる気はしませんけど。

そして、雅也が洗脳されかけたけど目が覚めた引き金が「人を殺しそうになったけど殺せなかった」というのが、なんというか、よかったです。


…で、全てが終わった最後の最後で、雅也の彼女の笑顔なんですけど、その部分だけ一切合切説明がないんですよね。

流れから推測するに、彼女もまた雅也と同じように元獲物として大和に目をつけられており、雅也と同じように大和と面会することで影響を受けていったということだと思うのですが、どうなんでしょうか?

もし、それが正解であるならば、あの町には他にも大和に影響を受けたことで大和の思想を受け継いだ者や、悪意を持った人間が増殖していることになり、そして、大和の死刑執行に時間がかかればかかるほど、そんな人達が増えていくわけで、メチャクチャ怖いことになりそうですね。

24人殺害して9件が立証されている上に改心の余地がないのに、即刻死刑執行されない日本の司法ってどうなんだろうな…とも考えさせられました。
映画だし…というツッコミはご容赦ください。
TKE

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