Epi

ある男のEpiのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.6

『ある男』。
いろいろな見方はあると思うが、自分的には今年の邦画ナンバーワン。
ルネ・マルグリットの印象的な絵から始まる物語は、最初から不穏な空気に満ちている。それは恐怖でなく、アイデンティティの揺らぎのようなもの。
妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝といった主要どころもさることながら、真木よう子や清野菜々、中野大賀、榎本明といった実力者がほんの脇役(でも重要な役割)で出てるのも贅沢。
脚本の向井康介、撮影の近藤龍人、そしてなにより石川慶監督の作る世界に役者陣が魅力を感ているに他ならない。愚行録、蜜蜂と遠雷、Ark…観るたびに驚く日本映画らしからぬ画面と、巧みな構成力、そして「映画力」。
今回はその中でも最高傑作に近いのではないか。
まず、最初に出てくるルネ・マルグリットの絵画が不穏な魅力を感じさせ画面から見る目を逸らさせない。
そこから、圧倒的な安藤サクラの演技、窪田の佇まいの凄さ。カメラはピントをわざと別のところに向けて、奥にある意味や観客の視線をずらしてく…。
あの不穏さは、なんと言ったら、いいのだろう。石川慶
内容は、『砂の器』や『怒り』に近く、キャストの豪華さは、それらの作品に引けを取らない。
でもそれだけじゃない。あの不安や空気の震えはなんだろうか。
強烈に印象に残っているが弁護士役の妻夫木聡と刑務所のアクリルパネル越しに対峙する受刑者役の榎本明!
不遜で禍々しくてそれでいておかしみもあって、そして怖い。
「羊たちの沈黙」のハニバル・レクターに勝るとも劣らないあの不遜さ、傲慢さ!
レクター好きな人はぜひ見てほしい。
そして、今回の弁護士役は妻夫木聡だからこそできる役でもあって…。
ラストを見て、あぁっ!と声を上げた人もいるのではないか(かくいう自分がそう)。
観終わって劇場を出ると、自分の身分が実は不安定であることをまざまざと思い知る。
興味のある人はぜひ。
Epi

Epi