なお

ある男のなおのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

自分に流れる血を忌み嫌いながら生きる。もがいても掻きむしっても逃れられない業を背負って生きる。それがどれだけ辛いのかを知った。
この、自分へのどうしようもない嫌悪感を、親の遺伝として持つのと、偏見によるヘイトによって他者から与えられるのでは、また違った辛さがあるんだろうと思う。
前者の場合は、嫌悪の所在がはっきりと分かっていて、そこからどうしても逃れられない。
後者は、なぜ嫌われなければならないのか、という憤りを抱えている。
少なくとも後者の辛さは自分たちのはたらきで減らすことができるし、減らさなければならないと思う。
前者の場合は、どうしたらいいんだろう。と思う。減らす手段の1つが、戸籍を変えて新しい人生を生きることで、そうして幸せを掴んだのが原誠なのだろうか。やっと掴んだ幸せが3年と9ヶ月で思いがけず終わってしまって、原誠の人生とは何だったんだろうと思った。ものすごく理不尽だと思った。

だけど、倒れてくる木を見つめる谷口大裕は、間違いなく身に迫る死を、そして今の生活が終わってしまうことを恐れ、悔いていた。それは、谷口大裕もとい原誠の人生が幸福だったという証拠のように思う。

自らの体を痛めることで存在を認めていたボクサー時代であれば、自らの死に直面したとしてもあんな表情にはならなかっただろう。
里枝と出会いが、地獄だった彼の人生を幸福なものへと反転したのだ。
地獄のような人生でも、ささやかな出会いで反転するのかもしれないと思うと、希望が持てる気がした。

また、総じて、役者の演技が素晴らしかった。

笑いながら、瞳にしっかりと怒りを湛える妻夫木聡

わけわからないことと本当のことをごちゃ混ぜにして相手を撹乱する、闇の世界に生きてきたマジでヤバい奴。のリアリティがすごい柄本明

日常の中でふと涙が溢れる瞬間、をものすごく自然に演じる安藤サクラ

死刑囚と、死刑囚の血を忌んで葛藤する子の二役を演じ分ける窪田正孝

この話を、この演技を、映画館で見れて良かった。
なお

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