シャチ状球体

ある男のシャチ状球体のレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.1
人物描写の解像度が一々高くて見入ってしまう。

導入部分の時点で、谷口大祐を名乗る人物と里枝が恋仲になる過程が丁寧に描かれていてその後の展開に説得力がある。何らかの形でケアをし合える状態の関係が次第に固定化されていく感じ。能動的な人間関係って基本的にはこう維持されてるよね。

陰謀論者や排外主義を隠さない登場人物と城戸を同席させることで、マジョリティからはマイノリティが見えにくいけどマイノリティからは自身を抑圧し続ける構造の存在を嫌でも気にかけてしまう不均衡さもきちんと表現している。

そのうえで、やはり死刑制度は明確な人権侵害で即刻廃止しなければならないし、偽の谷口大祐はそのせいで生まれたに等しい。
親と子は別人格だし、血の繋がりがあるか否かに意味はない。婚姻制度に価値を与え、家族とそうでないものを身内と他者に分断できるように強制的に夫婦同姓にされてる。ヘイトスピーチを許さないという社会的な合意に乏しい。
未熟な司法制度や社会的な構造を真正面から受け止めざるを得ない城戸の苦しみを和らげるためには、これからよりよい社会を作っていくことが一番の特効薬なんだと思う。
自民党総裁選みたいな、ごみ箱の中から何を拾うかを決めるイベントが連日好意的に報道されてるこの国ではまだまだこの映画と同じ景色が続きそうかな……。

平野啓一郎の小説を色々買ってみようと思います。
シャチ状球体

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