SANKOU

さがすのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

さがす(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

同じ片山慎三監督の『岬の兄弟』は個人的にはアウトな作品だった。もちろん共感を求めて作られた作品ではないだろうが、あの映画を観て一定数の心を傷つけられた人はいるだろうなと思った。
そして今回の映画もかなり際どい内容ではあった。
社会の底辺にいる人々が足掻いた結果モラルを失くし、開き直って悪の道に染まってしまうのは『岬の兄弟』と通ずるところがあると思った。
冒頭から万引きをして捕まった父親の元に駆け込む少女の姿から重い空気が垂れ込める。
通天閣が見えるから新世界だろう。父子が暮らす住居も平屋で、明らかに彼らが貧しい生活をしていることが分かる。
万引きをしても悪びれる様子のない父親智。娘の楓はそんな父親の駄目っぷりにうんざりしているが、それを愛嬌であるとも捉えている感じがあった。
二人の姿はどこかユーモラスで、しっかりと心が繋がっているように思われた。
母親がいない理由は後々分かる。
目を閉じると悪いことばかりが浮かんでくるという智の言葉に共感を覚えた。
智は楓に指名手配になっている殺人犯を見かけたと話す。殺人犯には300万円の懸賞金がかけられていた。
智はどうやら犯人を捕まえて金を手に入れたいようだったが、楓はいつもの冗談だろうと軽く受け流す。
しかし翌日から智は姿を眩ましてしまう。
警察は大人の失踪は結果が決まっているからと相手にしてくれない。
社会はレールを踏み外した者に対してとても冷たい。
もちろん楓が何か悪いことをしたわけではないのだが、彼女自身は恐らく自分が社会のレールから外されてしまったと感じたことだろう。
しかも父親からは「探さないで下さい」というメールが届いてしまう。
担任の先生は一応親身になって彼女を応援してくれるが、彼女の心の内にまでは踏み込めない。
彼女に協力するのは下心ありありの同級生の花山だけだ。
楓は智が働いていた日雇いの現場を訪れるが、智の名前を訪ねて現れたのは見知らぬ若い男だった。最初は同姓同名の人違いかと思った楓だが、その男が指名手配中の男とそっくりだったことに気がつく。
通称「名無し」の手配犯山内は父親の失踪と関係があると確信した楓は、警察の力を借りずに自力で山内を見つけ出そうとする。
楓が山内を見つけ、路地を追跡するシーンは先の展開が読めなくてハラハラさせられた。
山内は逃走するが、楓は執念で彼のパンツを引きずり下ろす。
パンツのポケットには智の携帯と切符が入っていた。この瞬間、彼女の中で色んな想像が入り乱れたことだろう。
楓は花山と共に切符の到着先へ向かう。そして彼女は警察のサイレンが鳴る中、思わぬ光景を目にすることになる。
ここから時間が遡り、事件の真相が明らかになっていく。
山内は死体を前にしないと性的興奮が得られない異常者だった。そして彼は自分の欲望を満たすために自殺志願者を利用していた。
一方智は難病を抱える妻の看病に疲れていた。妻の公子は自分を殺してくれと智に頼む。
そんな公子の言葉を笑って受け流そうとする智だが、自殺未遂をした公子を前に一瞬助けるのを躊躇してしまった自分の心にも深い戸惑いを感じていた。
智が公子の願いを叶えようと彼女の首を絞め、その後に激しい後悔に襲われ自分を責めるシーンは心が痛んだ。
そんな智の苦悩を利用しようと山内は彼に悪魔の囁きをする。
世の中には死にたいと願っている人が多い。これは殺人ではなく、人助けだと。
実際には心から死にたいと願っている人は少ないのだろう。彼らの望みは楽になることなのだから。
山内は公子の願いを叶えようと彼女に手をかけようとするが、その時に彼が見せた微笑みにはゾッとした。
それを見た公子が最後に感じたのは幸福ではなく恐怖だった。
いつしか智は山内に利用され、ネットから自殺したい人間を探す手伝いをさせられる。
金と引き換えに山内は自殺志願者を次々と殺していく。自らの欲望を満たすために。
物語が進むにつれ、実は智が冒頭から綿密な計画を立てていたことが分かる。
彼は知らず知らずの内に人生の沼にどっぷりとはまりこんでしまった人間だ。
沼は一度はまったらなかなか抜け出せない。
もちろん智には善悪の判断は出来るはずだが、彼は元の生活に引き返すことが出来なくなってしまった。
後半の怒涛の展開には唖然とさせられたが、色々と問題作ではあるものの、この作品のシナリオの持つ力には感心させられた。
好きか嫌いかはともかく、人を惹き付ける内容ではあると感じた。
片山監督は絶望の中にもユーモアがあることを見逃さない。
この映画も残酷な世界観の中にコメディの要素がたくさんあると思った。
逃亡する山内がある老人に誘われて自宅に招かれるのだが、老人が襖を開くとそこには大量のAVソフトが飾られている。
これから起こることは狂気の沙汰なのだが、どこか間抜けで笑ってしまうシーンでもあった。
楓役の伊藤蒼は『空白』を観た時も思ったが、かなり目に意志の強さを感じさせる女優だと思った。
これからの成長が楽しみだ。
ラストの全てを知っていた楓が、智が冒頭にしたことと同じようにふざけた表情をする、その強さに心を打たれた。
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