なおとた

シューマッハのなおとたのレビュー・感想・評価

シューマッハ(2021年製作の映画)
3.0
シューマッハの知られざる素顔を彼の家族、同僚、ライバルたちのインタビュー、本人の貴重な映像などを使って解き明かすドキュメンタリー。
彼が心を許した家族や一部の同僚の証言から、輝かしい功績の裏に隠された葛藤や、意外な脆さを暴き出していく。
ドキュメンタリーのために新しく収録されたインタビューにも一見の価値あり。

ただ残念なことにこの映画には彼の真実にはそこまで踏み込んでないようにも思える。
ミハエル・シューマッハを一言で表すと
とてつもない実力を持ったクソ野郎だということ。
数多くの完璧なレース、名勝負の裏に幾つもの汚点が残されている。
普段は冷静にレースを戦うが
勝利、特にタイトルがかかったときに越えるべきでない一線を飛び越えてしまう。
ライバルのアタックを妨害する、ポジション争いで直接車をぶつけてリタイヤに追い込む。
アイルトン・セナを『僕のアイドル』と呼び、セナの
死に涙を流しながらも自分はおろか、他人をも危険に晒す矛盾。
それがミハエル・シューマッハだ。
7度のタイトルという前人未到の記録を打ち立てながらも
それでも勝つことに飢えていた孤独な魂。
多くのライバルに打ち勝ちながらも決して自分の弱さに向き合うことができなかった男。
その脆さ、葛藤も含めて彼なのだ。
そこに踏み込まず彼の栄光に目を向け続けるなら彼は永遠に孤独のままだ。
彼の実質的なキャリアは恐れを知らぬ若者フェルナンド・アロンソに敗北を喫して幕を閉じる。
勝利をいくら積み上げても決して満たされなかった彼が、敗北によって引退を決めたことは他のライバルには無いものがそこにあったのではないかと思う。
その答えを知る機会はもう失われたであろうと思うと寂しくてならない。