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あのことのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
3.8
オードレイ・ディヴァン監督がノーベル賞作家アニー・エルノーの小説「事件」を映画化。
ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞。
原題:(仏) L'Événement (2021)

舞台は1963年、法律で中絶が禁止され、中絶すること自体が罪に問われた時代のフランス(合法化は1975年。日本では母体保護法が施行された昭和23年=1948年)。
将来を期待される優秀な大学生のアンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)は、大事な試験を前にして、医者から妊娠していると知らされる。
出産をすればキャリアはない。何としても堕胎しようと様々な手段を試すが、うまくいかないまま時間だけが経過していく。
ようやく闇医者を見つけて処置してもらうが、成功しない。
危険を覚悟で再びゾンデを挿入する。
それから数時間後、激痛が走る…。

~その他の登場人物~
・母ガブリエル( サンドリーヌ・ボネール)
・交遊の広い学生ジャン(ケイシー・モッテ・クライン)
・友だちブリジット(ルイーズ・オリー=ディケーロ )
・友だちエレーヌ( ルアナ・バイラミ)
・厳格で意地悪な寮生クレール(レオノール・オベルソン )
・厳格な寮生オリヴィア(ルイーズ・シュヴィヨット) :産み落としの場面に遭遇。
・レティシア(アリス・ドゥ・ランクザン):堕胎経験者
・ボルドーの学生マキシム(ジュリアン・フリジア):行為の相手
・闇医者リヴィエール(アンナ・ムグラリス)
・かかりつけのラヴィンスキー医師(ファブリツィオ・ロンジョーネ)
・ボネ文学教授(ピオ・マルマイ)

「いつか子どもは欲しいけど、人生と引き換えはイヤ。子どもを恨むかも。愛せるかどうか」

「くじ引きと同じよ。"流産"と書いてくれる医師か、"中絶"と書く医師に当たるか。後者なら刑務所行き」

「400フラン。 前払いよ」

「羞恥心より欲望が勝ったの。妊娠を免れたのは、運がよかっただけ」

「○○の言うとおりもう話さない。その方がいい」

「更にゾンデを入れるのは危険よ。体が拒否反応を示している。合併症の恐れも。やるなら自己責任になる」

この映画に力がある一番の理由は、物語の大筋が、原作者のエルノーが実際に体験した事実だということ。
主演のアナマリア・ヴァルトロメイが存在感のある演技を見せる。
寮のトイレでの産み落とし場面は壮絶。
主人公は子どもを堕ろすことに後ろめたさを感じていない。原作者エルノーにも、映画化した監督にも堕胎したことに後悔はない。
時代とともに変化する個人主義とエゴイズムの境界について議論するのもよいだろう。
1回目は、フランス映画祭横浜での鑑賞。
監督とヴァルトロメイが来日し、トーク・ショーあり。
監督は、自分でも中絶を経験。ポーランドやアメリカで中絶を禁じようという動きが出ていることを懸念し、女性の知的欲求と官能的欲求を重要だと考えているとのこと。
早速、原作を拝見。短編ですぐに読めるので、ぜひ手に取ってみてください。
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