むむりくもたこ

世界で一番美しい少年のむむりくもたこのレビュー・感想・評価

世界で一番美しい少年(2021年製作の映画)
4.2
じわりと内側に入ってくる素晴らしいドキュメンタリー。素晴らしいドキュメンタリーたるものは本来必要ないのが理想だよなぁ、という見る側の矛盾を見事に突いてくる。

オーディションのカメラテストをポスタービジュアルにしている点、制作側の意図を強く感じる。

ヴィスコンティの罪は重い、とか、ビョルンなしに作品の完成はなし得なかったとか、たくさんの言い訳を浮かばせては葬っていく。
実母の別れの手紙がビョルンそのもののようであり、つらいとか寂しいとか悲しいとかをすべて包んでいく。とても良い映画。

とても暗く音もうすら寒い映画だけど、暗闇の中で孤独な自分が溶けていくような感覚に安堵したりする自分には、最高。
「トーベ」と方向性が異なるが、1人の人を追う作品として金字塔。

北欧はすごい(←多分こういう無自覚さが批判される部分だ)

インタビューでビョルンについて無意識に、にこやかに語る日本人の「だけど」や「やっぱり」という言葉遣いが嫌になった。

皮肉に撮れているのに、ビョルンは「ドキュメンタリーの制作の過程でとても気に入っているのは、好きだった日本に戻ったことです。本当に好きな国です。」と述べてる。本当かな…。

ビョルンはいつも何かに欠けている事に敏感で、それに左右される人生のように思う。そこを逃さずに厳しく詰めていくあたりが、本当にこの映画の醍醐味。
消費だとか消耗だとか言う前に、人との距離の詰め方や、物事との関わり方を根本から考えさせられる映画。

もう一度見たい…それはビョルンが見たいというよりも、その生き様で今はいいよね…生きていくって事だもんね…と、自分自身ももっと思いたいからかもしれない。

「死なない、消えてゆく」ビョルンの人生、なんとなく私は遠くに感じない。