億千

世界で一番美しい少年の億千のネタバレレビュー・内容・結末

世界で一番美しい少年(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

「ベニスに死す」は大好きな映画で、本当に傑作だと思う。
それでも造り物は造り物。タジオは映画の中に棲み続けるけど、ビョルンはその後も現実世界を生き続けないといけなかった。

ベニスに死す以降苦悩を抱えて生きていたようだということと、ミッドサマーに出演したことは知っていたけれど、こんなにも沢山失って、寂しい思いをしてきた人だとは。特にベニスに死すの撮影やその後のプロモーション時に親が側に居ないのは痛い。ビスコンティやその周りの大人たちにその辺の配慮は皆無。もしくは心配していても周りが生み出す渦が強大すぎてとても個人では太刀打ちできないか。

日本でのプロモーション時の映像や、今のビョルンが日本を訪れる映像が結構長尺で使われていた。日本での彼の消費の仕方を観て、マジで国を挙げて謝罪案件やなと思ったけど、パンフレットのインタビューで、ビョルンが日本のことを好きだと言ってくれていて嬉しかった。

喪失につぐ喪失。彼の人生はその生まれからもう寂しい。その影が、元来の美しさに加えて魅力を更に与えてしまっていたのなら、それがタジオのイメージとピッタリ重なるものになってしまっていたのなら、やはり運命と云わざるを得ないのかもしれない。

息子を喪った後に鬱になるのはもう必定だし、それでも今生きている、部屋も最低限整えて生活をしようとしているビョルンの姿を見ると、私も頑張って生活しないとなぁと思う。

それにしてもあの恋人を名乗っていたイェシカ?だっけ?あの人の変わりようは何なのさ?!終盤にバルコニーで話をしていたのもイェシカかな?時系列がそのままなのかは分からないけど、あの電話の後に和解したってこと??
あの電話での言葉を聞いてめちゃくちゃ悲しくなったんだよ…「こんなに尽くしてきたのにあなたは感謝もしない」って…。尽くした対象に対してどんな感情を持つかは自由だけど、ことビョルンに対してはそれは言っちゃダメじゃない?幼い頃から自分の美貌にしか興味のない大人に囲まれて消費されてきた人に、結局何か彼が差し出したり、自分の望むような態度を取ったりしないと自分が彼に対してしてきたことが無意味になるって言う言葉はさぁ…。

…と、熱くなっている私も、タジオを通したビョルンに対して、勝手に理解したつもりで庇護欲を駆り立てられているだけなのかもしれない。自分の感情が相手の何から起因されているものなのかを冷静に見極めるのは難しい。
だから、自分の感情ではなく、その時の状況を見ないといけないんだと思うし、ビョルンの言う通り、昔のビョルンと同じように今エンタメ界で消費されている子役を守るしっかりとしたルールが、どの国でも必要なんだろうな。

映画の中で差し込まれるタジオの姿。ビョルンは、タジオのことを理解して、整理しようとしているように見える。母親が残した別れの手紙は、意図せず、ビョルンからタジオへの手紙のようだとも思った。

あと、エンディングで、日本でリリースされたビョルン歌唱の歌を流したのは日本版だけですか?!何かもうごめんなさい許してくださいって気持ちになった…。
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