かたゆき

帰らない日曜日のかたゆきのレビュー・感想・評価

帰らない日曜日(2021年製作の映画)
3.0
1920年代、第一次大戦の傷跡が未だ根強く残っているイギリスのとある地方都市。
大戦で二人の息子を亡くしたニヴン家に務めるメイドのジェーンは、幼い頃に孤児院に捨てられ以来一人で生きてきた天涯孤独の身。
年に一度、メイドたちが里帰りを許される母の日の日曜日、帰る家などないジェーンは一人自転車でピクニックに行くといって屋敷を出てくる。
だが、彼女の本当の目的は違うところにあった。
ニヴン家と仲が良い同じく上流階級のアプリィ家の息子ポールと密かに会う約束を交わしていたのだ。
婚約者のいるポールに初対面の時から言い寄られていたジェーンは、その後何度も逢瀬を重ねていた。
誰もいない広い屋敷の中で今という時間を楽しむ若い二人。
だが、彼らの親の世代に当たる当主たちは大戦で失ったものの大きさにいまだ心を引きずられていて……。
自然豊かなイギリスの田園地帯を舞台に、秘密の恋に溺れるとある若い女性と彼女を取り巻く様々な人々の心理を繊細に描いた文芸ドラマ。

確かに作品としての完成度は非常に高い。
孤児として育った若いメイドのとある一日と、のちに作家となった彼女の悲恋、そして世界的な文学賞を受賞することになる晩年の彼女を俯瞰的に描くことで、20世紀という激動の時代をラディカルに見つめるその視線の鋭さは特筆に値する。
時間軸を頻繁に行き来し、しかも過去パートは作家となった彼女の創作かもしれないメタフィクションともとれる複雑な構造なのに、観客をまったく混乱させないこの完璧な構成力は見事としか言いようがない。
そして、センスあふれる美しい映像と気品に満ちた音楽も見どころの一つ。
長い伝統と格式を感じさせるイギリスの古い屋敷の中を全裸で気の向くままに歩き回るヒロインなど、まるで中世の重厚な絵画の世界に入り込んだかのよう。
きっとこの監督の才能は確かなのだろう。

ただ自分は、その才能をまるでひけらかすような感じが少々ハナについてそこまで好きになれなかった。
技巧に溺れすぎたのか、肝心のストーリーがいまいち心に残らない。
登場人物がみな上品に振る舞いすぎていて、血の通った人間味が感じられないのだ。
泥臭くてもカッコ悪くてもいい、自分はもっと心に響く物語を観たい。
かたゆき

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