「あの人どこでなにしてるんだろうな」とか「元気にしてるかな」とか。
過去にとても大切な時間を紡いだ人との思い出が、ふと蘇ってきて懐かしんで物思いに耽ってしまう瞬間がたまにある。
思い出すのってほんの僅かな時間なんだけど、その僅かには他人は決して介入できないし、他人が想像できないくらいたくさんの思い出が詰まっていて、美しさや悲しさや苦しさや楽しさが混沌と存在していて。
それを一纏めに「いい思い出だ」とかって肯定できる人もいれば、そうでない人もいると思う。
ただ、その記憶のどれもこれもが今の自分を構築していて、全てが現在につながってる。これは誰の思い出にも共通して言える、確かな事実。
この作品はそんな考えを根底に持った映画。これまでの過去を肯定してくれる優しさを持っている。
男女の別れから出会いまでを遡って描くラブストーリーと聞いて「最近よく見かけるエモい系失恋映画か…」なんて思っていた。そしてそんな期待はいい意味で裏切られた。
同類作品にあるようなエモの押しつけもないし、クサくて思わず笑っちゃうみたいな嫌なシラケもない。
何より、観客が置いてけぼりを喰らってしまうほどの作られすぎた2人の世界がない。
いやもちろん2人で築き上げた世界は確かにあるんだけど、決して観客が入り込めないようなものではなくて。
2人の関係はただただリアルでいて、とても愛おしい。愛おしすぎてそれだけで心が満たされてしまうくらい。
そしてその世界観を体現した伊藤沙莉と池松壮亮の2人が本当に素晴らしい。
息の合った、というかもはや合いすぎた掛け合いの数々。本当のカップルにしか見えなかった。
2人の間には色々あった。もちろん楽しいことばかりじゃない。辛いこともあったし、ぶつかることもあった。それでもそんな過去が今につながっている。過去があるからこそ今がある。
だからなんだって言われたらそれまでだけど、そんなメッセージに少なくとも私は救われたし、これからはもうちょっと自分に優しくなれる気がする。
2人が紡いだ時間を通して見えてくるのは、過去と今のつながりの他にもう一つある。それは日常の愛しさだ。
コロナ以前の日々を生きる平凡なカップルを目の当たりにして、日常がすぐそばにあった頃がとても恋しくなってしまった。
早く当たり前の日々が送れるようになるといいな。日常が私たちに寄り添ってくれていたあの頃が輝いて見えるな。
会いたいな、日常に。
そういえばあの時出会ったあの人、元気にしてるかな。