風の旅人

ちょっと思い出しただけの風の旅人のレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
4.5
世の中には二種類の人間がいる。
自分で目的地を決めて一人で走る人間と、他人が決めた目的地に向かっていっしょに走る人間。
ダンサーという夢に生きてきた照生(池松壮亮)にとって、怪我による挫折はある意味で人生の終わりを意味するショッキングな出来事だったのだと思う。
それが原因で、タクシードライバーが天職の葉(伊藤沙莉)との間に溝ができてしまった。
身体表現を生業とする照生は何も言わなくても察してほしかったのに対し、葉は何でも言葉にしてほしい性格だった。
物語は二人が別れた現在から付き合っていた過去に遡っていく展開を見せる。
『ちょっと思い出しただけ』というタイトルが示すように、終わった恋を振り返っていく。

人と人との出会いは「運命」なんて呼べる劇的なものではなく、ちょっとした「偶然」によって生まれる。
照生と葉、葉と康太(屋敷裕政)がそうであったように。
しかしその偶然の出会いは、時として人生の中でかけがえのないものになる。
公園で死んだ妻を待ち続けるジュン(永瀬正敏)、劇中で三度登場するミュージシャン(尾崎世界観)、タクシーの乗客たちとの何気ない交わりは、そんな人生の機微を演出する。

あの時こうしていれば、今は違っていたかもしれない。
誰もがそんな苦い経験をしているはずだ。
過去を変えることはできない。
しかし時が経てば、過去の印象は変わってくる。
辛く悲しかった出来事も、やがて今の自分を形作る大切な思い出になる。
風の旅人

風の旅人