大傑作。少女レナはまるで『ふたりのベロニカ』のイレーヌ・ジャコブのような物憂げな顔で列車の窓から流れる風景を見つめ、幼い頃に離れた故国アルメニアの寒村へとやって来る。時代はソ連統治下、恐らくナゴルノ・カラバフ戦争(とアブハジア紛争)が発生している当地から、祖父母をモスクワに移住させるためにやって来た彼女は、全く動く気のない彼らと同じく動かなくなってしまった電車によってモスクワへの帰還を阻まれ、何も知らない故郷での暮らしを余儀なくされる。監督マリア・サーキヤンは1980年、アルメニアはエレバン生まれ。詩人 Seda Vermisheva の孫娘でもあった。彼女は1993年に家族でモスクワに移住しており、長編一作目である本作品の主人公に自分を重ね合わせたのかもしれない。