ブラックユーモアホフマン

マクベスのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

マクベス(2021年製作の映画)
4.5
ホラー映画だ……。

恥ずかしながらシェイクスピアの戯曲のことなんにも知らなくて、「マクベス」も今回なるほど、こんな話なんだと思いながら観たのだけど、悪魔やら幽霊やらが当たり前に存在している歴史劇って感じが日本の古典芸能にも近いなと思いつつ。確かに黒澤明的な題材でもあるんだなとも思う。『蜘蛛巣城』早く観たい。
終始、不穏。ホラーな空気が充満した世界で破滅に向かうべくして向かう話。

冒頭ラルフ・アイネソンが出てきたり、スタンダードだったり、白黒だったり、A24だったりで、『ウィッチ』や『ライトハウス』のロバート・エガースを想起したりもした。

撮影は最近ずっと組んでいるブリュノ・デルボネル。もうロジャー・ディーキンスとは組まないのか。今回、弟イーサンとも共同監督を解消して、遂にシェイクスピアという古典に手を出して、後年のジョエル・コーエン新境地という感じか。
比較としては単純すぎるかもしれないが、デルボネルの作る画はディーキンスよりさらにフィクショナルで、作り込まれている。それが今回の歴史劇にもぴったりハマっていると思う。

Netflixで作った西部劇『バスターのバラード』もだし、コーエン兄弟のこれまでの作品のほとんどがそうだけど、自分の人生をコントロールできてると思い込んでいるが実は手も足も出せておらず、右往左往して破滅に向かう人々が描かれるから、デルボネルのかっちり作り込まれた画は、そういう世界の不条理さというか、この世界(映画の画角)のルールは既に決まりきってしまっていて人間個人(俳優)にはどうすることもできないのだ、という感覚を強くさせるのではないかと思う。

だから本作も古典が原作ではあるが、実にコーエン的な主人公だと言える。『ファーゴ』のウィリアム・H・メイシーや『バーバー』のビリー・ボブ・ソーントンなんかに特に近い。

白黒の撮影がバッキバキにキマってるのも『バーバー』を思い出す。フランシス・マクドーマンドの鬼嫁っぷりも似てる。

原作を知らないのでどう脚色しているのか分からないけど、元々めちゃくちゃ長い話をギュッとしてるんだろうなというのは分かる。だからちょっとダイジェストな感じがして、もっと尺長くても見ていられたなとは思った。

セリフがさすがに全て詩的で美しく、メロディや伴奏こそないがミュージカルのようですらある。そんな美しいセリフを、デンゼル・ワシントンが演じているのを見るだけでも1,800円払う価値は大いにある。

【一番好きなシーン】
夢遊病のフランシス・マクドーマンド。めっちゃ怖い。