しの

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーのしののレビュー・感想・評価

3.4
上映前に流れる劇場用CMが導入として完璧だった。絶妙なハードル設定とそれを乗り越えた時の達成感。諦めずに何度もやってみるトライアンドエラーの精神。マリオの本質が示されているし、それがそのまま本編のテーマになっている。何なら本編より感動した。

マリオの人物像がその絶対に諦めない精神の体現者になっているのは言うまでもないが、個人的にはアイテムの見せ方に感心した。というのも「そのアイテム次第でどうとでもなるじゃん」とはならない見せ方にちゃんとなっている。あくまで”諦めない精神“の補助役なのだ(そしてそれは実際のゲームでも同じだ)。そう考えると、マリオがキノコを食べることに対してああいう設定になったのも、老若男女が共感できる「諦めない精神」の第一歩の描写として単純明快ではないか。

斯様に、この映画は子どもが飽きない90分台の尺でいかに楽しさとネタを詰め込んで、かつ破綻させずに共感させるかに全力を注いでいる。その意味では、マリオの「オリジン」から描いたのも、単にゲームの歴史を振り返る構成にしたというだけでなく、導入として共感しやすいからだろう。最大の改変である「ピーチでなくルイージを助ける」も、どう考えてもあの尺で描く展開としての自然さ重視の結果だろうし。

原作ネタの物量作戦のなかで、この“最短距離の共感”を盛り込みつつ、「成功体験の気持ちよさ」と「アニメーションの快楽」をシンクロさせる映像表現。これにより、小ネタを見つけながら楽しむ三世代ファンと、ゲーム未経験の観客とをどちらも最大公約数的に楽しませる内容にはなっている。

ただこの作りには「裏を返せば…」な面もあり。一番気になったのは緩急、とくに”タメ“のなさだ。とにかく場面は次々に転換していくのでダイジェスト感は否めない。例えば「ああ絶対絶命!」みたいな展開を何度もやるのだが、そこに全く危機感がないというか、こちらがピンチを認識する間もなく解決されてしまう。これに関しては終盤でドンキーと一緒に式場へ乗り込むシークエンスが顕著だが、途中で敵軍団のミサイル攻撃があっても全くピンチ感がないというか、もはや障害物としてすら機能していないくらいのテンポ感で処理される。あるいは、予告編で期待していたレインボーロードのマッドマックス感も意外と薄いとか。

ここはゲームと映画の媒体の違いが出てしまった部分もあると思う。アクションは意図的に横スクロールだったりゲーム画面的な見せ方になっていて、勿論それが飛躍していく作りではあるが、自分はやや傍観者的に見てしまった。自分でプレイすれば楽しいのだろうけど……。

あと残念なのは、トライアンドエラーというテーマの落とし込み方がやや甘くないか? という点。「クリアできなかった面がようやくクリアできた時の喜び」が、序盤の訓練シーン以外にあまり反映されない。“何回もやって解決する”展開がクライマックスにも欲しかったところ。

ドラマとしても、結局マリオの自己実現ってそれでいいの? という疑問はよぎらなくもない。序盤で設定された課題があまりにリアルなので、ヒーローになったバンザイ! で終わると戸惑うのかもしれない。今後キノコ王国を拠点にすることになる理由づけはもう少し欲しかった。

上記のような観点でみると、批評家評と観客評の乖離が云々……という話には宜なるかなという感じがする。ただ、観た後すぐに「続編でアレもやってコレもやって!」と駄々を捏ねたくなる位にはおもちゃ箱映画として機能しているし、更に言えばあの土管の設定を考えると任天堂ユニバースも夢じゃない。色んな意味で“導入”としては及第点以上でないかと思える一作だった。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】任天堂がやった!けど批評家ウケ悪い?小ネタ満載で楽しさ重視の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 https://youtu.be/G6q9pZaSE0E
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